蒼の双眸(FGO×DC)

A


たぶん今年を20回以上繰り返している中で、俺のお守り役のサーヴァントが毎年交代して側にいて、それはじゃんけんで決めていて……。知り得た情報があまり有用なものじゃないような気がしてならない。そういや、"回数はあまり重要じゃない"んだっけ。だったら一体何が重要で、こんなことになった原因があるんだ?自分が何を知っていて、何を知らないのかがわからない。今更焦ったところでしょうがないのかもしれないけど、ぼろぼろと剥がれ始めたら止まらないんだ。はやく、はやく突き止めないと。

「……あれ?」

学校に登校してすぐのこと。ランドセルを背から降ろして机に置いた時、カサリ、とズボンのポケットから何かが落ちた。

「あー!立香くん、何か落ちたよ!」
「おまえ、ランドセルにスマホ入れっぱなしだったりもの落としたりおっちょこちょいだな〜」
「元太君にはさすがに言われたくないですよ〜」
「おいなんでだよ光彦!」

ポケットに何か入れてたっけな。自分の席の下を覗き込もうとしたところで、別な手が横から伸びてきた。床に落ちているトランプ柄が印刷されたカードがその手に拾い上げられる。

「ほらよ、藤丸」
「……ありがと、コナンくん」
「どうした?なんか変だぞお前」
「あー、いや。ちょっと考え事しててさ〜」
「何かお悩みですか立香くん!」
「そういう時は少年探偵団に相談しなきゃ!」
「そうだぞ水くせーぞ立香!」
「もしやその手にしているカードに暗号が……?!」
「ええっ、見せて立香くん!」
「何て書いてあんだ?!」

あっという間に少年探偵団に持っていかれてしまった、トランプ柄のカード。どうせナーサリーのことだから大したことは書いてないと思うけど。3人が囲むようにカードを見ているもんだから俺が見に入る隙が無い。まあ、いいか後で見よう。ランドセルの中身を机の中に移し始めたところでため息を吐いた灰原さんがやってきた。

「持ってかれちゃったけど、いいの?」
「まー大丈夫じゃないかな。きっと大事なことは書いてないよ」
「藤丸にあんな可愛いのくれるのってどうせあの子だろ、ナーサリーちゃん」
「……俺、あの子の名前言ったっけ?」

なんで俺、コナンくん相手に普通にあの子の真名言ったんだ?よく考えたら他のサーヴァントの真名も言ってしまったような気がする。ええ、結構やばくない?真名ばれたら今後面倒なことに……

「お前から聞いたっつーか、本人が名乗ってたけど?しかもその後普通に会話でナーサリーちゃんの話題出ただろ、今更何をそんな気にすんだよ」
「え?あ、そうか。本人が名乗って……んん?本人?本人が言ったの?」
「おう。ナーサリー・ライム、って言うんだろ。にしてもわらべ唄を名前にするなんて変わった親だよなあ」
「聞いても人名とはすぐ思えないわね」
「ねえねえ立香くん、この暗号に心当たりないの?」
「ていうかそもそも暗号じゃないと思うよ。たぶん、ただの手紙」
「手紙ですか〜。確かに内容見ても暗号かと言われると微妙ですしねえ」
「ちぇーっ、なんだよ面白い事件になるかと思ったのによー」

歩美ちゃんが丁寧に畳みなおしたカードを手渡してくれた後、3人は別なクラスメイトのことが気になったようでその子を追いかけて廊下へと走って行ってしまった。事件を追ってるって、危ない目にあわないといいんだけど……

「それで?それに何て書いてあるの?」
「えっとねー、なになに……"プレゼントは忘れちゃダメよ"……?」
「あの子に何かあげる予定だったのか?」
「いや……」

プレゼント。ナーサリーの言うプレゼントはひとつしかない。『とっておきのプレゼント、見つけてくれた?』あの日、電話越しに聞こえた笑い声。プレゼントは、俺の父さん。母さんにとっておきのプレゼント、確かに渡したいしそれが父さんだったら尚更会わせてあげたいと思うけど、正直今はそれどころじゃないんだ。きっと、この延々と続く1年を元に戻さなくちゃ父さんは母さんに会えない。また振り出しに戻って――……あれ?そもそもの話、振り出しに戻るんだっけ?1年過ぎたら、また1年をやり直すけど、また関係を一からやり直した覚えはひとつもない。コナンくんも灰原さんも転校生だけど、この二人が転校してきた光景を繰り返し見た覚えはなかった。

「……ねえ、コナンくん」
「なんだ?」
「安室さんてさ、いつからポアロで働いてるの?」
「結構前からいたと思うけど」
「それはさ、コナンくんが引っ越してくる前からかな」
「あの店員さんの方が後よ」
「なるほど。灰原さんは?」
「私が転校してからしばらく後にあの人がポアロでバイトを始めたのよ」

やっぱりそうだ。コナンくんたちが転校してきたのは随分と前の事のように感じるけど、季節を考えたら少なくとも半年以内。コナンくんと灰原さんの転校時期も差がある。後に転校してきた灰原さんのしばらく後にってことは、1年の区切りの中で言えば安室さんは最近現れた人なんじゃないだろうか。転校してきたコナンくんたちと普通に仲良いクラスメイトとして過ごしてきたけれど、ポアロの名前こそ出ても安室透という人の話題はこれまで出たことがなかった。つまり、仮に20回繰り返したとして、安室さんは途中参加で20回すべてにいたわけではないってことだ。ということは同じ1年を繰り返していたとしても、中身がまるきり同じわけじゃない。年号や学年、身体は変化しなくっても確実に何か変化は存在して着実に前へ進んでる。

「もしかして、それが綻び……?」
「藤丸、今日のお前ほんとに変だぞ」
「ねえ!コナンくん、教えてほしいことがあるんだ」
「お、おう……?」

朝から色々と考え込んでずっとずっと頭を悩ませてきたけど、ようやく糸口が見えてきた。不思議なことに、ずっと繰り返されていた中で確実に同じ時を過ごしたと思えるのはコナンくんや灰原さん、少年探偵団のみんなだった。みんなは気づいてないかもしれない。今後も状況によっては気づけないかもしれない。それでも、彼らに聞かなければならないと思った。きっと、彼らは……彼は何かを握ってる。

「もう一度ちゃんと教えてほしい。安室透って人は、一体何者なのか!」

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