蒼の双眸(FGO×DC)

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長い眠りについていたんじゃないかと思うくらいに深く眠っていたらしい。寝起きでぼんやりする視界が明瞭になるにつれて、昨日のマーリンの言葉が頭の中を駆け巡る。

「綻び……」

俺がこの世界の矛盾に気づいたことが綻びのひとつだと言うのなら、まだまだ始まったに過ぎないってことか。まだゴールなんてこれっぽっちも想像できやしないけど、先が長そうなことは今でもわかる。思い出せ、思い出すんだ。俺は、いつからここで……

「おはようございます、マスター」

突然、青が視界に入る。布団に寝転がったままの俺の枕元に座っているのはアルトリアだった。視線だけ送ったせいで逆さまに映っている騎士王は緩やかに微笑んでいた。……ああ、そうだ。そうだった。ようやく思い出した。

「……最初に俺と一緒に行動してたのは、アルトリアだったね」
「ええ!思い出して頂けたのなら何よりです」
「うん。思い出した。あれは、何年前……ていうとおかしいのかな。今年はもう何回目?」
「はて、何回目でしょうか。回数はあまり重要ではないと私どもは考えています」
「ううーん……少なくとも10は超えてる気がするんだけど」
「超えてますね」
「15!」
「超えてま、って誘導するのはやめて下さい、マスター!」

朝食ができていますから、はやく起きて来てください。と垂れそうな涎を押しとどめている彼女はさっさと部屋から出て行ってしまった。ゆっくりと身体を起こす。手も足もお腹も全部子供の大きさで変わらない。何も変わらないのに、俺はずっとこの姿で過ごしてきたという。10は確実に超えてる。15も超えてるな。20はどうだろう。超えてるような気はするけど……。前に進まないだけで1年を毎年繰り返していたのだとするなら単純に計算したら20年前の出来事なんか鮮明に覚えているわけがなかった。アルトリアが側にいたということは覚えているけど、その年に何が起きたかなんてわからない。ていうか20年って。普通に成人してるじゃんか。元々の人類最後のマスターだった頃の年齢を加えたらいいおじさんじゃん、俺。もそもそと寝間着を脱いで着替えてから洗面所に向かう。母さんは今日はやく出るって言っていたから、もうこの時間にはいないだろうな。顔を洗ってからキッチンの方を覗くと、いつも通りに朝食を作っているエミヤの後ろ姿があった。

「おはよ、エミヤ」
「おはよう、マスター」
「……なに?どうかした?」
「いや、随分と落ち着いてると思っただけだが」
「うーん。落ち着いてるっていうか、逆?めっちゃくちゃ色々考えてるんだよ。あれはどうだ、これはどうだって。そういや、エミヤが俺と一緒に行動してたのってあったっけ」
「いや。私は食事担当で君に関わる機会が多いだろうと遠慮させてもらっていた」
「なるほど。確かにご飯でいっつも会うしなあ。アルトリアの次誰だっけ……あ!そっか。"今年は"ナーサリーだったのか。通りでほとんど一緒にいたわけだ。そうだよな、よくよく考えたらさ、お茶会に出るメンバーがずっとそばにいたわけじゃなくてナーサリーだけだったんだもんな」

俺の中の新しい記憶の中ではナーサリーがすぐ近くにいた。少し遡ってみれば今度は別なサーヴァント。そしてその前にも別なサーヴァント……と次々顔が浮かんでくる。順番は曖昧だけど、彼らは俺の側で過ごしていた。ほどよく焦げ目のついたトーストにひとかけら落とされたバターを塗り広げる。ベーコンに火が通るいい香りが部屋いっぱいに広がった。先に俺の部屋を出たはずのアルトリアがなぜか俺よりも遅れてやってきた。彼女はふんふん香りを嗅いでフライパンを握るエミヤの元へ近寄って行く。

「ベーコンは多くても困りません。もっと焼いてください、アーチャー」
「君の胃袋が困らなくても食費が困る。却下だ」
「どーせお金なんてあの金ぴかが出してるんだから気にせず使ったらいいのよ。あ、私には半熟の目玉焼きよろしくね、アーチャー」

おはようと挨拶もそこそこに食卓についたイシュタルに思わず首を傾げた。この子とは一緒に過ごした時があったんだっけ。……あれ?イシュタルって……

「何よ、その顔は!大体ね、あなたが気づくのはもっと時間がかかると思ってたのに誰もかれも口を出すわ手も出すわ、世話焼きが過ぎるっての」
「イシュタルってよくご飯時にいたけど俺と一緒に行動してた時少なくない??」
「彼女はじゃんけんに負け続けてますからね」
「じゃんけん?あれじゃんけんで決めてたの?!」
「私は毎年譲ってあげてただけよ!結局戦える英霊は他に配置されるんだから子守に女神を使う必要なんてないでしょうが!」
「ルールがないと私闘を繰り広げるだけなのでね。ある程度この世界の安全性を確認してからはマスターの守番をじゃんけんで公正に決めている」
「それは公正と言っていいのかなあ」

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