蒼の双眸(FGO×DC)

B


藤丸と二人でポアロに向かってからのこと。家に連絡するからと藤丸はポアロにすぐ入らなかった。先に入ってて、と言われてその通りにしてみれば目を疑うような光景がポアロの中で繰り広げられていた。

「おははひをおへはいふぃまふ」
「えっおかわり…?…とりあえず食べきってからの方が良いんじゃ……?」
「ふぉれもふぉうれふが、ゴクン、…どのみち注文するので先に声をかけておこうかと」
「なるほど…?」
「納得してどうするんですか梓さん!」

四人掛けのテーブルの上に所狭しと広げられたサンドイッチの皿に空っぽになって積み上げられた皿の山。席についているのは一人の女性。まるでフードファイターの食事風景を目にしているようだった。つーかこの人、この前の水着の人とめちゃくちゃ似てる。髪や肌、そして瞳のカラーリングが違うだけで全く同じ人物のようにさえ思えた。白のブラウスに青いスカートで身なりは大人しそうな人なのに食べる様子はなかなかの立派な様だった。カウンター内でせっせと動く安室さんをよそにお盆を抱えて目を丸くしている梓さんを呼んでみる。

「一体なにごとなの梓さん?」
「あのお客さん、たくさん食べられるからって最初は色んなものを注文してくれてたんだけど、ハムサンドを食べ始めたら急にハムサンド縛りを始めてしまって……!」
「それにしても尋常じゃない量に見えるんだけど?!」
「そうなのよ!食べてる真っ最中におかわりするの。しかもそれも食べきっちゃうし!食パンが足りなくって買いに行きたかったんだけど、ハムサンドがターゲットにされてしまったら安室さんがお店から出れなくって…」
「じゃあ梓さんが買って来たの?」
「ううん、こうなったら大量注文することにして商店街のパン屋さんに配達してもらったの。それから安室さんは今やもうサンドイッチ製造マシーンに……!」
「色々おかしいことになってるって二人とも気付いてないの?」
「僕にはやらなければならないことがあるからね…!」
「そこまで意地にならなくてもいいんじゃないかな!!」

これだけの量を食べて支払いは大丈夫なのかと梓さんに聞いたら、「いっぱいあるって!」と指でお金のポーズをしていた。それにしても限度はあるだろ!

「口に詰め込むだけの有難みの欠片もない食べ方をする人ならお断りだけど、丁寧に美味しそうに食べてくれる人になら僕はいくらでも作ってあげたくなるんだよ」

レタスをシャキシャキにする作業に勤しんでいる安室さんが嬉しそうに笑う。確かに、ぱくぱくと次から次へと食べているあの女性はとてもおいしそうにハムサンドにかぶりついている。付け合わせのポテトチップスすら丁寧に一枚ずつ拾い上げて口に運んでいるくらいだ。次々に皿を空にして行く彼女から目が離せないでいると、電話の終わったらしい藤丸が首を傾げながらやって来た。

「プレート、クローズになってるみたいだけど……?」
「えっ、今日は開店してから一度も閉じてないわ」
「じゃあ入っていいんだね。って……何事なのこれ」
「オレにも何がなんだか」

カウンター内で忙しなく動いている安室さんを見て藤丸が目を丸くしていた。それから、テーブル席にいるあの人を見てものすごく驚いている。

「ええええ?!なにしてんのさ!アルっ、いや、セイバー!」
「っまふ、ゴックン。立香?!」

やっぱり藤丸の知り合いかよ。ソファ席に座る彼女の元へ駆けつけた藤丸はテーブルの上の数々の皿たちに苦笑いをしている。あれを見て驚かないってことは普段から同じようなことをしてるってことじゃねーか、この人……。さっきまでせかせか動いていた安室さんの動きが止まっていた。瞬きを忘れたかのようにセイバーと呼ばれた彼女を静かに凝視している。

「安室さん?」
「え?ああ、なんでもないよ」

再び動き始めても、今までは手元だけを見ていたのにその目線があきらかに藤丸たちを探るようにさりげなく逸れていく。

「今日はお茶会するって言ってなかった?」
「前回、お茶うけのビスケットが美味しいあまり食べつくしてしまったのを子供たちに詰られまして。何か少し食べてから挑もうと思い、巷で噂のこの店へ来たのです!」
「少しっていうか結構本気で食べてない?」
「このハムサンドが美味しいのがいけません。メニューをただ全制覇するくらいで終わらせようと思っていたのに、とんだ伏兵がいたものです。手軽に食べられるだけでなく美味しさがつまっていてついつい口に運びたくなってしまいます」
「そんなに美味しいの?」
「ええ!アーチャーの料理に負けないくらい!」

目を輝かせて力説する彼女の話に、藤丸はへえ〜と興味深そうにテーブル上のハムサンドを眺めている。それからオレの存在を思い出したようで、「ごめんごめん」と言いながら彼女の前へと案内される。

「立香のご学友でしょうか」
「うん!同じクラスの江戸川コナンくん。この上の毛利探偵事務所に居候してるんだ」
「ああ、先日の少年ですね。初めまして、立香のマンションを借りている者です。私の事はセイバーとお呼び下さい」
「江戸川コナンだよ、よろしくね!……ねえねえ、セイバーさんって本名なの?」
「いえ、愛称のようなものですね」
「セイバーは愛称の方がお気に入りなんだよ」
「ふーん……」

コトリ。会話を遮るように現れたのは一皿のハムサンド。

「その愛称は最近の流行か、それとも海外でよくあるものなのか……」

気になりますねぇ。と好戦的に笑う安室さんが見つめるのはセイバーの方。きょとんとしている彼女は、ちらりと藤丸の方へ視線を送る。

「……よくあるものだと思いますが」
「安室さん、他のセイバーに会ったの?」
「まあね」
「どんな人だった?」
「その人は男の人だけど」
「男……男か。それで、身長は?」
「結構高いと思うよ」
「髪は?短い?長い?」
「短髪で…って、立香くん。君はどうしてそんなに気になるんだい?」
「…このセイバー以外の、セイバーって愛称の人たちに会ったことがあるんだけど一人全然会えない人がいるんだ」
「立香!」
「だってセイバー!女の人とっかえひっかえしてたら後で大変なことになるじゃんか!」
「……はい?」
「その人、悪い人じゃないんだけど女の人が好きすぎるから、娘からの冷たい目線に傷つく前に止めてあげないと…!」
「それはともかく。彼は元気にしていると耳に入ってきていますが、違いますか?」
「ええ、元気そうでしたよ。女性の影は特になさそうでしたし……」
「ならば結構。立香、彼は仕事をしているのです。心配は無用ですよ」
「そうは言ってもさぁ……」
「ねえ、さっきから二人が言ってる彼って安室さんの会ったセイバーと本当に同じ人なの?」
「さあ、どうだろうね。写真はないし…僕も探偵の仕事中に会っただけだからあまり多くは話せないからね」
「安室さん、そのセイバーは危ない事してない?」
「うん。僕の見ている限りではね。ところで、彼には娘さんがいるのかい?」
「いた…けど、離れ離れになっちゃったんだ」
「立香、この話はもういいでしょう。すみませんが、残りのハムサンドは全て包んで頂けませんか。後でひとつ残らず美味しく頂きますので!」

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