拍手ログ もういくつ寝ると


「ぜったいに起きてます」
「白目剥きながら言われても説得力に欠けるぞ」

黒目があらぬ方法に動いている吉川の肩からずり落ちた部屋着用のケープをかけ直して胸元のボタンを留め直す。この子にはちょっと大きかったな。着せたばかりの時に邪魔だと言って頑として被らなかった猫耳タイプのフードを被せてみても気付かない。白目を剥いた妖怪のような猫がこたつに入って座っている。

「年越しだからってそこまで無理して起きる必要あるか?」
「むしろ毎年起きてたのに今年がこんなに眠くなるなんておかしいんですよぅ」

身体が子供になったからか眠気に抗えないのだと言う幼い部下は、白目どころかこっくりこっくりと頭が揺らぎ始めている始末。これは起きてられるわけがないだろ。

「年越し前に起こすから一回寝れば?」
「やですぅ〜……」
「ちゃんと起こすから」
「だめぇ。ふるやさん、わすれるかもしれない〜……」

忘れたところで、という話なんだが吉川は譲る気がない。その内こたつの台に額をぶつけそうだな……そう思ってしまうほど首が勢いよく揺れ始めた。

「あがっ」
「言わんこっちゃない」
「いっ、言ってないですよねえ……?!」

ちょっとだけ赤くなった額を小さな両手で抑えている彼女は少しだけ覚醒したようで恨みがましそうにこちらを見ていた。まぁ、言ってないけど。思っていただけだけど。まだ眠そうな吉川はこたつから出ると、すばしっこい動きで何故か俺の真横に入り始めた。

「ぎゃっ、となりだとスキマができて寒い!」
「お前が小さいからな。それにしても自分から隣りに来るなんて珍しいな?」
「となりにいれば降谷さんも忘れないと思いまして」
「ホォー」

隙間ができて寒いとお前が思うってことはこっちも同じなわけで。せっかく温まったこたつの熱が逃げていくのが惜しい。どうしたものかと見下ろせばまた揺れ始める猫耳フード。あぁ、最初からこうすればよかったな。

「こっちにおいで」

小さな猫を抱き上げるみたいに持ち上げて、自分の足の上に座らせる。これで隙間はなくなって温かいし、首が揺れても俺が抑えているからぶつからない。

「降谷さんあったかい」
「吉川の方が温かいよ。まさに子供体温」
「それは、しょーがない、やつれす……」

抱きかかえるとつい癖であやすように吉川のお腹をトントン揺らしてしまった。そのおかげか明らかにさっきよりも眠そうな顔をしている。

「はは、お前、幸せそうだなぁ」

いい顔してる。すやすやと眠り始めた吉川の顔を眺めていたら、なんだかこっちまで眠くなってきた。年明けまで大分あるし、ちょっとくらいいいか。





「……んえ?」

ゴーンゴーンゴーン

「……あ!年越し!年越した!」
「んん」
「ぎゃあ、なんでこの人まで寝てるの!しかもガッチリ抱えられている!だっ、だれか助け、うわあぁハロちがうの遊びじゃなくてそんな舐め、うわーん!降谷さん起きて下さいよー!ぬるっと年越しちゃいましたよぅ〜〜!」

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