拍手ログ おおそうじ


年末ともなればやることは山積みで、ひとつひとつこなしていくなかで気がかりなことが頭の隅にひとつ。

「……おおそうじ?」
「年末だからね。普段は簡単に済ませているところもこれを機に……って、おい。吉川なぜ逃げるんだ」
「そうじ当番じゃないので遠慮しておきます!」
「遠慮はいらん」

ぴっ!と効果音でもしそうなほど体を固まらせた吉川は、小さな手をあくせく動かして椅子から降りようとした。それも、食後のデザートをちゃっかり持ったまま。

「おまえ、元の身体の時の家の掃除はどうしてたんだ?」
「できる時にやって、おおきなそうじはしてないです……」
「……あんまり帰ってなかったよな?」
「えへ」

えへ、じゃない!やわらかい頬っぺたを引っ張ってみれば、餅のように面白いくらいのびるのびる。ちょっとデザートとか食べさせすぎたか?いや、家の食事量はおそらく適正……となるとそれ以外。

「吉川」
「ふぁーい」
「プリンは取らないから、ちゃんと答えるんだ」
「?」
「この前、局長の手伝いをしに行ったと聞いているんだが、その時はなにをしてたんだ?」
「書類の仕分けとかですよ」
「それだけ?」
「……それだけですっ」
「本当に?」
「……ほ、ほんとうに……」
「へえ、本当に」
「……」

プリンのカップを握りしめた吉川が目を逸らした先には、いつも背負っているリュックが置いてあった。ホー……あのリュックね。たしか、あの時も背負っていたな。数歩歩いてリュックへと手を伸ばす。後ろからギャーギャー聞こえるけど、子供と大人のリーチの差を埋めるのはどうしても無理だ。

「これはなにかな?」
「……かばん」
「聞き方が悪かったね。中には何が入ってるんだ?」

小さなリュックに、何かがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。うさぎの耳がついたリュックなものだから、太ったうさぎのように見えてきた。かわいそうなうさぎだな。

「くれるって言うからもらっただけですもん」

                                                   

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