憧憬/降谷零


まどろむ夜明けに憧れた


『4日後の17時30分にここにおいで』

寝起きの目元をごしごし擦り、ベッドの中で横になり光る画面をぼんやり見つめる。何度見ても文面は変わらなければメールの差出人も変わらなかった。添付された地図に書かれた目的地にはポアロと書かれている。喫茶店……?急に連絡してきたと思えばこれだ。

「どういうことですか降谷さん」

ベッドの中で呟いても返事がこないのは当然で、答える代わりにもう一通メールが届いた。

『返事は?』

「〜〜わかりましたよぅ」

了解した旨を簡潔に書いて送信する。それから返事はない。だいたいこんな時間に起きてるなんてどういうことだ。まだ朝の4時なんですけど。組織関連の仕事でもしてたのかしら。……だったらその合間にわたしに連絡なんてとってていいのか。『4日後のそれは仕事ですか?』と送るとすぐに返事がきた。

『そうでもない』

そうでもないってどういうことですか。会話というか日本語が破綻してます先輩。…まあいいかそのままにしておこう。どのみち4日後には会うんだからそん時に聞けばいいや。出勤までにはまだ時間があるからもうちょっと眠ろう。握っていたスマートフォンを枕元へ投げると、またメールを受信したらしく震えはじめた。ん?あれ?これ電話だ。

「もしもし……?」
「オレだよオレ」
「朝っぱらからのオレオレ詐欺はお呼びじゃありません」
「つれないなあ、久しぶりだっていうのに」
「……わたし、これから出勤なんですよー」
「知ってる。まだ時間があるね」
「もうひと眠り、とかしちゃいたいなあって」
「ああ、おやすみ」
「……それだけ?」
「ハハ。それだけ、って何か期待でもしてたのか?」
「ちっ、ちがいますっ!」
「冗談だよ。おやすみ、遅刻はしないように」
「はい、おやすみなさい降谷さん」

おやすみ。もう一度聞こえた降谷さんの声が耳の奥で木霊して、ふわふわと力が抜けていく。とってもよく眠れそう。遅刻したら降谷さんのせいだって言っちゃうんですからね。誤解されても知らないんだから。





まどろむ夜明けに憧れた

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