憧憬/降谷零


ノイズ混じりの昼下がり


「なんでいつもわたしばっかり」

今日は気分が悪い。すこぶる悪い。何てったって、わたしのPCに入っていた降谷さんの写真データがごっそり消されてしまった。犯人はもちろん風見さん。くそ、家のPCにちゃんとバックアップとってあったかな。最近家にあまり帰れてないから記憶が曖昧だった。随分前のやつが残ってるのは確実だけど、最近のは残ってないかもしれない。この前ハッキングがぬるいとか煽んなきゃよかったよ〜。印刷した降谷さん(写真)は何とか回収して死守できたけどね。休日だってのに警察庁に顔出したらこのザマだよ。寄らなきゃこんなに気分の悪い休日を過ごす必要なかったのに。

「のど乾いたな」

公園の中を通って帰り道をショートカットしよう。ついでに自販機でコーヒーでも買ってこ。ええっと、財布財布……

「あ!おねーさん、なにか落ちましたよ!」

少年の高い声が聞こえて振り向くと子供が5人いた。風でひらひらと舞う紙を追ってわたわたしている。紙…?あっ、それ降谷さん(写真)だわ。体の大きめな男の子が写真を捕まえてくれたため、受け取ろうと少年たちの前にしゃがむ。

「ボウヤたちごめんね、それわたしの、」
「あれー?この人安室の兄ちゃんじゃねーか?」
「えっ安室さん?元太くんわたしにも見せてよ!」
「ほんとだ安室さんですー!」

安室さんだと盛り上がる少年たちの中から鋭い視線が二つ。眼鏡の男の子と、その子に隠れるように大人っぽい女の子がこっちを見てきた。なにか疑うような視線に一瞬ひるむ。そういや安室って降谷さんの偽名だった。ってことは裏の降谷さんの知り合いってことかな。なぜこんな子供たちと知り合いなんだ降谷さん。

「お姉さん、安室さんとどんな関係なの?」
「ど、どんな関係って……」

眼鏡の男の子は表情を崩さず一歩前に踏み出して来た。

「もしかして、ストーカーだとか言わないよね?」

「ええっストーカーですか?!」
「このお姉さんストーカーなの?!」
「ってことはコナン!この写真ってストーカーして撮った写真ってことか?!」

ストーカーという言葉にわたしをそっちのけで盛り上がっている3人に、ストーカーじゃないよと声をかけるとつまらなさそうに口を尖らせた。いやいや盛り上がることじゃないからね、それ。

「どうしてストーカーだなんて思ったの?」
「だって、写真これだけじゃないんじゃない?」
「へ?」
「鞄。写真のミニアルバムが3冊も入ってるのが見えたんだ」
「あー、鞄ね……」

指をさされた方を見ると、バッグの中が見えてアルバムが目に入る。いや、そりゃそーなんだけどさ。中身は確かに降谷さんなんだけど。

「それにこの写真に写ってる安室さんが変だと思ってさ」
「まあ確かにレアな笑顔ショットだからねこれ」
「え?」
「そういうことじゃなくて?」
「いや、僕が変だと思ったのは安室さんの視線がレンズとは別な方向を見ているのと写真にノイズが多いなってことで……」
「あー、まあ確かに視線外されちゃってるけどノイズはこういう仕様だよ。トイカメラって知ってる?その名の通りオモチャのカメラってことなんだけど、わざとノイズ入りで撮れたりするの」

疑うきっかけの写真の説明をしても満足いかなかったらしい。仕方がない、わたしのコレクションをちょっとだけ披露しよう。

「まだ疑うなら、こっちで検証してみる?」
「おねーさん、そのアルバムにも安室さんの写真があるの?」
「うん。ほら」
「って安室さんしか映ってないじゃないですか!」
「ねーちゃんやっぱストーカーじゃねーか!」
「ちーがーうーよー!」
「じゃあ、どう違うのか説明してもらおうじゃねえか」

ニヤリと笑う眼鏡の少年はきっとわたしがストーカーだと思ってる。せいぜい言いわけしてみなこの犯罪者めって顔してる!さっきまで彼の後ろに隠れていた女の子も気がつけば前の方に来ていてパラパラとアルバムをめくってから、小さい声で「趣味悪い……」と呟いた。うるさい子ども。






ノイズ混じりの昼下がり

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