憧憬/降谷零


工藤新一初めての捜査協力B


「この度は合同捜査に応じていただき感謝しております。おそらくうちの部下がご迷惑おかけしたと思いますが、その件は何卒ご容赦いただきたく……って、え?どうしました?皆さんなんだかフリーズしてますけど。ねえ、新一くん。山本迷惑かけてなかったの?」
「いや、迷惑っつーかやり難いっつーか……」
「あははー、ごめんごめん。いま自由に動かせるのそれしかなくって」

数年ぶりに会う捜査一課の皆さんはものの見事に口を開けて固まっていた。特に千葉くんなんて、眉をひそめて小首を傾げている。ゆっくりと持ち上がった彼の右の人差し指がわたしの方へまっすぐ向いた。千葉くんったら人のこと指さしちゃいけないって知ってるでしょうに。

「……吉川?」
「ええ、まあ。旧姓だけど」
「旧姓?!フルヤって偽名じゃないのか!」
「なんと今では本名なんだよ」
「安室さんと結婚したんじゃないのか?!」
「したよ〜」
「……それで?今の名前は?」
「降谷紗希乃」
「吉川おまえ再婚したのか?!」
「なんでそうなるの?!」
「待って待って、紗希乃さん。千葉刑事たぶん降谷さんのこと知らないんだって」
「えっ。毛利探偵は知ってるじゃない」
「そうだけど!おっちゃんたちは知ってても他に言ってないんだって」

なんてことだ。安室透は戸籍上実在しない人物で中身は降谷零だということを毛利一家やその周辺に明かしていたのが中途半端だったみたい。たしかに大手を振って広めてほしいわけではなかったけれど、律義に守ってくれていたんだ毛利さん……。あとで何か差し入れしよう。お酒持ってくと蘭ちゃんに怒られるから別なものにしなきゃ。

「今日に至る紆余曲折を話す必要は今はないのでまた今度飲みでも行こうか、千葉くん。他の子は誘うと厄介だから……あ、新一くんてまだ未成年だっけ?」
「いやいや千葉刑事とオレと3人?まだ死にたくないんだけど」
「やだー物騒なこと言わないでよー」

3人で行って死ぬわけないじゃん。零さん呼んでもいいけど、千葉くんからしたら上の人だし居辛いだろうしなあ。零さん敵にも安室透時代を引きずってうまいこと話せなさそうだし。そんなことを考えている間にも疑っている様子がありありの佐藤刑事と目暮警部をどうにかしたい……。でもなあ、これまでの捜査一課とわたしのやりとりを思い返しても決して良好とは言い切れないのが苦しいところ。

「貴女は前科があるから、どこまで信用していいかわからないわ」
「信用度としては公安であるという点も踏まえると尚のこと難しいな」
「うーん。まるで犯罪者……とは言ってもうちお得意の捜査方法ですので変えようがないですね」

しょうがない。ジャケットのポケットを探って、警察手帳を4人の前で広げて見せた。わたしたち公安があまり提示することのないそれはくたびれるにはまだまだ時間が足りなくて、今でもツヤツヤと輝いていた。ぱかりと開いて見せれば、真っ先に反応したのは新一くんだった。

「げっ、そうだとは思ってたけど紗希乃さんやっぱ昇級してんじゃん……」
「してないとは言ってないよ〜」
「この前、宮野がお祝いするって言ってたの断ってたくせにそれかよ」
「だって上がったの最近の話じゃないしね」
「待って、もうお前そんなところまで……?!」
「千葉くん、向こうの昇級ペースはこのくらいで当然よ。それより、」
「我々と階級の近い彼から、あなたに担当が交代するということはそういうことだととって良いのでしょうな。……降谷警視」
「いえいえそんな。階級にものを言わせて何かしようと思って出てきたわけじゃないですよ」

階級には、ね。そんな含みを感じ取ったのか、みんな息を凝らしてこちらの様子を伺ってる。警戒の色がより一層強くなった。特に目暮警部は複雑そうにこちらを見据えている。あえてニッコリ笑って見せれば、新一くんが苦笑いしていた。

「改めまして、警察庁警備局警備企画課降谷紗希乃、捜査一課および工藤探偵とともに特別捜査班の一人として協力させていただきます。よろしくお願いいたしますね」


*

「目標の輸送完了したら教えてくれ。警視に報告する。……ああ、問題ない。警視が直々に行ったよ。おしゃべりしてくるとかなんとか……は?いやいや流石に無理だろう。風見警視は無理言うキャラじゃな、……は?もっと上?……僕は何も知らん。どうなろうと本当に知らない!警視にはそっちから伝えろよ、僕は僕の仕事をこなすだけだからな」




工藤新一初めての捜査協力B

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