馬鹿騒ぎ
66 あれを知りたいこれも知りたい
何でもないように振舞うリアに合わせて見て見ぬふりをする。それしか僕にできることはなかった。ソファで眠ろうとするリアを無理やりベッドに押し込み、僕はソファに横になった。紙をどかしたソファはとても広くて、小さな体の僕からしてみればベッドとさほど変わらなかった。気配に敏感な彼女が起きてしまわぬよう、寝返りも寝息も気をつけているうちにひっそりと夜は更け、あっと言う間に朝を迎えた。


「眠れた?」

「ん、」


目を覚ましたのは、がちゃがちゃという音に気が付いてからだった。ベッドの下から重苦しい箱を引きずり出しているリアは、その中にいくつも入っている武器をいじっていた。


「今日は武器屋に行ってくるからチェスはシカゴで観光でもしてたらいいよ」

「へ、僕は付いて行っちゃだめなの?」

「つまらないと思うよ。それに、火薬にいい思い出がないって聞いたんだけど」

半年前。フライングプッシーフット号での出来事。大量の火薬を積んだ僕はラッド・ルッソに交渉を持ちかけて一度殺され、葡萄酒の手でぐちゃぐちゃにされた。思いだしただけでも、背筋がぶるりと震える。

「やな思い出しかない」

「でしょー?だから、いいよ遊んでて。メンテナンスしてもらったらすぐ帰って来るからさ」

リアが僕の目の前に鍵を差し出す。

「どこの鍵?」

「玄関。地下道はわたしが使うから貸せないし」

「大学生の部屋から子供が出てきたらおかしくない?」

「弟とでも言っといて〜」

「髪色とかいろいろ違い過ぎだとおもうんだけどなあ」

「じゃあ、腹違いの弟?それか、甥っこ?」

「……なんか設定が上塗りされすぎてわけわかんなくなりそうだね」

「まー、きっと誰にも会わないと思うけどねえ」



NYから運んできた武器の入ったケースよりも二回りも大きなケースを持ったリアを地下の用水路まで見送り、未だに紙だらけの部屋で一人でくつろぐことにした。部屋の隅に乱雑に積まれた書類。片付けることに意識を置いていたから必要以上に読んでいなかった紙たち。そう。これはリアが今までやってきた仕事の書類なんだ。きっと、ラリサさんや依頼者からの情報が記されているんだろう。



「うわ、」


依頼内容が、とあるファミリーの暗殺に、要人暗殺、その他いろいろ。さすが魔女(マスカ)として名を馳せているだけあって仕事内容がヘビーなものが多い。へえ、シカゴのあの政治家殺したのってリアだったんだ。あんまり派手にやると警察にしょっぴかれるだろうに。警察には不死者を知っている者もいるし、ここまで目立つ人物の殺害を繰り返していたら大変なことになる。


「……でもきっと、どっかで何か考えてるんだろうな」


何も考えていないようで実はちゃんと考えている。それが、リア・コストスだ。これは、200年前から変わらない。でも会わなくなった期間のせいで、今のリアがわからなくなることがある。昨日だってそうだ。あんなにあからさまに様子がおかしいのに誤魔化そうとする。昨日ぐしゃぐしゃにされた紙はもうどこにもない。何か僕に見せられないことでも書いてあったんだろう。そう思うと無性に気になってきた。


あ。


そうだ、わからないのは知らないことがあるからだ。それなら知ればいい。何たってこのシカゴにはあの人がいるじゃないか。僕とリアが離れていた時期にリアと交流があったのはあの人だ。思い立った僕は、寝間着から着替えて、すぐさま部屋を後にした。リアの言うとおり、アパートから出ても誰にも会うことはなかった。



あの古本屋の場所はわからない。だから、タクシーでも拾って適当にあてを探してもらおう。まだ午前中なんだから、きっとリアが帰って来るまでに戻って来れるはず。戻る時に適当にお菓子でも買ってお茶を用意しよう。そうすれば、僕がリアのことを探っていることなんて気づかないハズだ。


「……あれ?」


なんでこんなこそこそと嗅ぎまわるようなことをしてるんだろう?ふと、思ったけど、タクシーが来たことによりその考えは頭から掻き消えた。



「えっと……このあたりで裏道のどこかに古本屋があると思うんですけど、それを探してほしいんです」



はやく見つかるといいな。




_66/83
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