アイドルシリーズ

可愛がってね*
高校生活最後の年、後輩がまた増えた。中にはめんどくせーヤツもいて、この先どうなることかと内心不安だった。しかも、そのめんどくせーヤツがうちのエースなもんだから心配事は尽きない。でも、まあ、初めの頃から比べたらスカした態度も部活への姿勢も大きく変わったし、悪いヤツじゃねーのは十分わかる。ただ馬鹿だけどな。授業中の今だって、あの派手な頭が机と仲良くしてることだろう。(誰が最後に勉強見てやると思ってんだあいつは。少しは勉強しろよ)

カツカツ、教師が黒板に英文を書き写している様子をぼうっと眺めていると、窓の外で何かが動いた。何だ。校門の方でこそこそ動いているヤツがいる。ああ、あいつは

「(黄瀬の幼馴染か、)」

女子とまともに話す機会なんてないオレが唯一関わったことがある人物だったりする。特に会話をしたわけじゃねえけど、勉強を教えてほしいと頼まれて黄瀬や森山たちと一緒に勉強会をしたことがある。まあ、オレはほとんど黄瀬の面倒を見てたから森山ほどあいつと話したことはない。

「(こんな時間から登校してんのかよ)」

昼休みも終わって、5時間目のちょうど中間。こんな時間からしか登校できないなんて芸能人も大変だな。オレらみたいに普通に授業受けて、部活する。それのどれもできやしない。あいつ友達とかいんのか?あ、やべえ、そんな他人の心配をしている場合じゃなかった、気づけば黒板はかなりの英語で埋め尽くされていて、ノートに写さないと次の授業で困るのは自分だと今更ながら気づいた。







「あ、笠松さん、こんにちは!」
「おっ、…おう…」

放課後、監督に呼ばれて職員室に行った後、体育館へとつながる渡り廊下で黄瀬の幼馴染とばったり会った。こうして一対一で会うのは初めてだし、何を話せばいいかわかんねえ。


「これから部活ですかー?」
「おう、」
「今日も遅くまでやるんでしょう?」
「…ああ」
「いつも遅くまで大変ですねぇ」


大変なのはお前の方だろう。黄瀬の幼馴染が手に抱えているのはたくさんのプリントの束だ。授業に出れていない分の課題とか補修だろうそれは、見ただけで嫌になりそうだ。遊びでサボっているわけじゃないのに、仕事の後に勉強漬けだなんて芸能人は本当に大変だ。


「涼太がご迷惑かけていませんか?」
「…いつものことだ」
「ふふ、よかったー!ウソつかれなくて!」
「は?」
「゛迷惑じゃない゛とか見え透いたウソをつかれるより、そうやって言ってくれるのが涼太と先輩方がうまくやれてるんだなあ、って思えるんですよ」

一方的な思い込みですけどね?そう言ってウインクをした姿はテレビでみる姿のそのまんまだった。


「あんな図体でかいクセに寂しがり屋なので、いっぱい可愛がってあげてくださいね」


それじゃあ、とプリントを持ったまま走って行く。なんだあれは。オレの返事を待つわけでもないし、黄瀬が迷惑をかけている前提で話が進んでいる。いや、実際そうなんだが…。ああ、そうか。さすが幼馴染ってことか。黄瀬のことを何でも知ってるんだろうな。そういえば、体育館の近くまで来てるってことは様子でも見に来たのか。なんだアイツ、すっげえ甘やかされてんじゃん。


「あー!笠松センパイ!遅いっスよ!そんなとこで何つったってんスかー!」
「黄瀬、」
「何スか?」
「頭さげろ」
「?」


首を傾げながら少し会釈をする程度に頭を下げた黄色の頭を、ばしんっと叩く。


「いってえ!急に何スか!」
「さあな」


いたいいたい、と頭をさする黄瀬をスルーして、体育館へ向かう。後ろから「待ってくださいよー」と、大型犬が付いてくるけど気にしない。

「黄瀬、お前ちゃんと感謝しとけよ」
「…?…うっス」

可愛がれとは言われたが、肯定はしてないからな。オレはこれまで通りどついてシバいて鍛えてやるだけだよ。










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何だかんだ可愛がってるよね、っていう。

2014/02/09


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