02 ― 夢の中で ― アラシは、真っ白な空間にいた。 何も無い、ただ自分がそこにいることだけがわかる。 足が自然と前へ進んだ。 否、自分の意思とは関係無しに動く。 まるで何かに導かれるように。 「やあ、アラシ?」 突然、話しかけられた。 ぼんやりとした人影が、そこにある。 不良のごとく黄色い髪だけが、確認出来た。 「あなたは誰?」 アラシは思うより先に訊いていた。 同時に、足が止まる。 「名前はゴドリック・グリフィンドール。君の前世」 「前世?」 口が勝手に動く。 シナリオになぞるように、本人の意思とは関係無しに。 「そう、前世。君が生まれるよりずっと前に、私はこの世から消えた。ところが、若い頃かけた転生魔法が効いたらしい」 ゴドリックはそこで口をつぐみ、沈黙した。 相手が話さないと暇なはずなのに、アラシはその場から動けなかった。 ――もしかしたら、それが空から降る人間の原因なのかもしれない。 「完璧ではなかったから、記憶は戻るのが遅いし、生まれた場所は東洋だった」 ゴドリックは唐突にそう言って、「若気のいたりだよ」と軽快に付け加えた。 アラシはさらに問掛けを重ねようとした。 知りたいことが沢山ある。 けれど、口を開きかけたその時、まるでタイミングを計ったようにゴドリックが告げた。 「そろそろ戻らないと」 どこに? けれど思った問掛けとは全く別の言葉が、口から滑り落ちた。 「また会える?」 ゴドリックが、微笑んだ――ように感じた。 「君と私は同じなのだから。きっといつか会える」 ゴドリックの輪郭が徐徐にぼやけていく。 遠く、なっていく。 アラシは「待って!」と、手を突き出して起き上がった。 漏れ鍋の部屋だ。 「夢……」 アラシは、夏休みの最後の一週間をダイアゴン横丁で過ごすため、漏れ鍋の部屋に泊まっていた。 祖父と祖母とは空港で別れ、ブラウンと名乗る監督生の案内でここまで来たのだ。 昨日、初めて魔法界に触れた。 昨日の記憶が急速に戻ってくると同時に、夢の記憶は薄れていく。 銀行に行って、お金を両替して、横丁を案内してもらった。 そう。さっきのは夢なのだ。ただの、夢。 アラシはカーテンを勢い良く開けた。 朝日が部屋に降り注ぐ。 その輝きが眩しくて、目を細めた。 今日から、新しい生活が始まる。 - 02 - しおりを挟む/目次(9) |