50 「あら、おいしい。葉っぱ変えたの?」 目を瞬かせたロウェナに、ヘルガが笑って答える。 その手には、ポットを持ってお湯を注ぎながら。 「煎れ方を変えてみたの。良かった、気に入ってもらえて」 「このお菓子も、手作りよね」 ロウェナがつまんだクッキーに、顔が緩んだ。 「あ、それは――」 ヘルガの言葉の最中で、クッキーはロウェナの口へ吸い込まれていく。 咀嚼が始まったところで、“俺”は彼女に最高の笑顔を向けた。 「それ、俺が作ったやつ」 「えぇ!?」 ああ、驚くその顔といったら。 ― コミミズクの招待状 ― 午後二時半、の少し前。 ホグワーツはいつもの休日通り、静かだった。 生徒の半数以上、それも上級生ばかりが外出しているからだ。 廊下も、平日とは比べ物にならないほどひっそりとしていて、その中を歩く四人だけが、際立っている。 「んで、その時にフィリップの奴が、“魔法生物が大好き”とかぬかしやがるから、俺ついに耐え切れなくなって」 「それで、大爆笑なわけだ」 「目立つし、減点させられるしで散々だった!」 シリウスが、先日の“魔法生物飼育学”でのちょっとした事件の真相を披露していた。 授業中、彼がいきなり笑い出して、痛い減点を貰ったときの話である。 他愛の無い内容に相槌を打つのはもっぱらリーマスの役目で、話の最中アラシとピーターはひーひー笑っていた。 その時、一部始終を目撃していたからである。 リーマスは丁度医務室にいる日で、授業に出なかったのだ。 「あいつ、絶対天然だぜ! 俺がなんで笑ったのか、わかってないんだもんな」 シリウスがそう締めくくる頃には、寮から大分離れた廊下にいた。 そろそろガーゴイル像が見えるかもしれない。 アラシは笑いすぎて痛む腹を押さえながら、後ろを振り返った。 「そろそろ着くよ。ピーター、いい加減笑うのを止めなよ」 「アラシだって、人のこと言えねーぞ。にやけてる」 ピーターがまだ笑い声を上げている横で、冷静な声で応じるシリウス。 どうやら彼には、思い出し笑いというものがないらしい――羨ましいことに。 アラシは慌てて顔を引き締めた。 校長室にニヤケながら訪問するのは、さすがに頂けない。 「飼育学、そんなに面白かったんだ。出たかったな」 リーマスが、ポツリと漏らした。 それを聞いたシリウスとピーターが顔を見合わせる。 アラシは小さく苦笑した。 やむを得ない事情なだけに、慰めの言葉も見つからない。 「そうだよ、お前もいれば良かったのにな」 シリウスがからりと言った。 「でも、フィリップのことだからまたやらかすんじゃない?」 間髪いれずにピーターが続いて、アラシは驚きに目を丸くした。 リーマスを見ると、彼もまたこちらを見ていることに気付く。 視線が絡み合い、数秒お互いにきょとんとする。 そして、どちらからともなく微笑んだ。 ――だから、この友人達といるのは、居心地がいいのかもしれない。 「あれ? だれかいるよ」 ピーターが、視線を廊下の向こうへやる。 廊下の先に校長でも立っているのかと思ったが、予想は外れた。 そこには人影も無い。 ガーゴイルはまだもう少し先だ。 「どこ?」 「階段の方。ほら、あそこ。上級生……に見えるけど」 ピーターが、左手の階段を指差して言った。 ピントを合わせるように、目を細めたり開いたりしている。 そちらへ目をやると、確かに背の高い影があった。 教授――には、見えないし、確かに上級生のようだ。 「へぇ。ホグズミードに行かない奴もいるんだな。珍しい。罰則でも受けてたのか?」 「ジェームズと同じ場所だったりしてね」 シリウスの言葉を受けて、リーマスが冗談を飛ばす。 「かもな」 ニヤリ笑いでもって返したシリウスは、しかし上り階段にいる人物の姿を見るなり、顔をゆがめた。 舌打ちをして、顔をそむける。 「嫌な奴を見ちまった」 「え? 知ってる人?」 「残念なことに、互いによく“ご存知”だ」 アラシは、もっとよく見ようと背伸びをした。 しかし気休め程度にしかならない。 そんなことをしたって、視力がよくなるはずが無いのだ。 人影は、黒いローブを着た背の高い人物であることくらいしかわからなかった。 どうやらシリウスは、目がいいらしい。新たな発見である。 ピーターとリーマスも、アラシと同程度しか見えていないらしく、首をかしげている。 その場で足を止めたアラシ達に、シリウスが急かすように促した。 「関わらない方がいい。さっさと行こうぜ。どこにあるんだよ、校長室」 言い終わらないうちに、ひとりで先に歩き始める。 「ちょっと、待ってよ」 慌てて、アラシも彼の後を追った。 リーマスも数瞬後に、付いてくる。 けれどピーターは、なんとか影を見極めようとしているのか、中々来なかった。 次の分かれ道を右に折れなければならず、このままだと彼を置いていってしまう事になる。 ピーターは、校長室の場所を知らないのだ。 一度立ち止まり、動こうとしない友人に声をかけた。 「ピーター、行こう」 「あ……うん」 ピーターが小走りに駆けて来る。 彼が追いつくのを待って、アラシは前に向き直った。 ――その瞬間、ぞくりと背筋が凍りつくような寒気に襲われた。 反射的に、背後を振り返る。 ピーターが、目を見開いてこちらを見ていた。 廊下は相変わらず静かなままだ。 絵画たちも思い思いの午後を過ごしているだけ。 何の、変化も無い。 いつもの廊下だったし、寒気も一瞬で無くなっていた。 ただの気のせいと言えば、そうなのかもしれない。 階段にいた人影が消えていることを除けば、先ほどの光景とほとんど変わらなかった。 その人物がいた場所を、見据える。 階段を上り終えて、廊下に引っ込んだのだと思えば、別段不自然ではない。 しかし何かが引っかかった。 以前、似たような経験をした気がするのだ。 「アラシ? 怖い顔をして、どうしたの?」 ピーターがおそるおそるといった感じに、問いかけてきた。 それではたと我に返る。 視線を前へ戻すと、リーマスとシリウスが、呆れたような目でこちらを見ていた。 「やっとお目覚めか?」 シリウスがからかうように言った。 その横でリーマスが「また“視えた”かい」と笑っている。 以前から何度もあった、“ゴドリックの記憶を見ている”のだと思われたのだろう。 あえてそれに弁解はせず、アラシは誤魔化すように軽く笑った。 「ごめん、行こう。遅刻するね」 そして、残念なことにその言葉通りの結果になった。 途中二度も立ち止まったせいで、約束の時間をわずかに過ぎてしまったのである。 ガーゴイル像が見えてきた頃には、時計の針は五分ほど進んでいた。 「ねえ、あそこにいるの、校長先生……だよね」 「俺の見間違いじゃなきゃ、確かに」 ピーターとシリウスが、呆然と会話をする。 アラシはガーゴイル像の前で佇むダンブルドアから目を背け、くっくっと喉の奥から笑い声を出した。 リーマスも、口元を押さえて笑っている。 しかし笑われている当の本人ときたら、朗らかな顔でこちらを手招きしているのだ。 ――わざとだ。絶対、わざとだ! アラシは心中で激しくそう叫んだ。 「そんなところで止まらずに、ここまで来なさい。アラシ、リーマス、シリウス、ピーター」 「は、はぁ……」 シリウスが気の無い返事をする。 そして何秒も待ってから、彼は歩みだした。 ピーターがそれに釣られるようにして、隣を歩く。 アラシとリーマスは、笑いでどうしようもなく震える肩をどうにかしようと、必死だった。 それでもなんとか、歩くことに成功する。 そうして四人は、ガーゴイル像の前に揃った。 「ようこそ、客人達」 ダンブルドアはいつもの少し芝居がかった調子でそう言って、ブルーの瞳をこちらへ向けた。 しかしアラシは、目を合わせるどころではない。 顔をそらして、“それ”を見ないようにするので精一杯だ。 ダンブルドアを見ると、自然と視線が“そっち”に向かってしまう。 ――彼の白髪(はくはつ)の上に乗る、コミミズクに。 ふてぶてしい態度は誰にでも同じらしく、我が物顔でその場を占領していた。 そしてピーターの時と同じく、その姿は滑稽以外の何者でもないのだ。 笑わないシリウスとピーターの方が、おかしいのである――たぶん。 「こ、校長先生? その、頭の上の……それは、一体……」 こう口火を切った勇者は、ピーターである。 ダンブルドアは、満足そうに笑った。 「離れてくれんのじゃよ。気にせずに、お茶会といこう」 くるりと向きを変え、ガーゴイル像の方を向く。 後姿もまたおかしくて、アラシは「ぶっ」と噴出した。 「アラシッ」 とがめるように、リーマスが小声で叫ぶ。 しかし彼の声そのものが、笑っていた。 「豆ジュース」 そうこうしている間に、合言葉が紡がれる。 ガーゴイル像が、動き出した。 それに軽やかな足取りで乗るダンブルドアに続き、シリウス、ピーターも出てきた階段に乗る。 アラシはなるべくダンブルドアを見ないようにしながら乗り、最後にリーマスが加わった。 シリウスとピーターの二人が、何事か校長と言葉を交わしていたようだったが、あいにく会話に参加できない。 視線を自分の足元に固定しなければ、今にも大笑いをしてしまいそうだった。 リーマスはすでに笑いの波が収まったのか、平然としている。 そんな彼をちらりと見て、もしかして己は笑い上戸なのではないかと、疑った。 勝手に上る階段が止まり、ひらりと校長が飛び降りる。 そしてドアを開き、まず生徒達を先に中へ入れた。 シリウスが興味津々といった感じに目を輝かせて、一番乗りを果たす。 「う、わ……」 奥へと進んだ彼の感嘆の声が、笑いを堪えるアラシの耳へ届いた。 ピーターが入り、リーマスが続く。 アラシが部屋に足を踏み入れると、ダンブルドアは自らも体を滑り込ませてドアを閉めた。 「テーブルにどうぞ」 ダンブルドアの一言で、立ち止まった四人は、再び足を進めた。 六つの椅子が並べられた円卓が、珍妙な品が並べられた奥にすえられている。 最初に腰を下ろしたシリウスから順に、ピーター、リーマス、アラシと隣に座り、最後に校長がシリウスの逆隣に座った。 空席が、一つある。 校長はアラシとの間にある椅子をちらりと見て、問いかけた。 「一人ばかり足らんように見受けるが、どうしたのじゃ?」 「ジェームズのことを言っているのなら、今日は罰則です」 「それは、間が悪かったのう」 質問には、シリウスが答えた。 校長は残念そうに言って、杖を振る。 空いた椅子が消え、代わりにティーセットがテーブルに現れた。 カップは、五つ。 「アールグレイじゃ」 誇らしげにダンブルドアは言って(その場にいた誰もが、なぜそこまで自慢げなのかわからなかった)、紅茶を煎れ始める。 その一連の間も、彼の頭の上に座るふくろうは、ぴくりとも動かなかった。 こうなるともう、“この状態”が普通であると思い込まなければやっていけない。 アラシは極めて真剣に、笑いを収めようと努力した。 「さて……アラシ」 紅茶を全員に配り終えたダンブルドアが、出し抜けに声をかけてくる。 あまりの不意打ちに、アラシはついそちらを見てしまった。 それが、いけなかった。 「へ? ――ぶっくっ……! くっあはははははははははっ」 相変わらずダンブルドアの頭には、例のコミミズクがいて、しかしダンブルドアの目は真剣で。 あまりにもあまりな光景に、笑いを抑え切れなかった。 さすがにピーターのときのようにいつまでも笑ってはいなかったアラシだったが、ダンブルドアを直視することが出来ない。 ダンブルドアの、ため息を付く気配がする。 ちらりと横を見ると、彼は手を伸ばして、うとうとと眠り始めたコミミズクを事も無く降ろした。 ごちゃごちゃした雑貨の中から籠を引っ張り出して、それにコミミズクを入れる。 「すみません」と謝りながら友人達を見ると、彼らはそろって呆れたとばかりの顔をしていた。 コミミズクが、ホウ、と鳴いた。 ダンブルドアが咳払いをして、話を進める。 「改めて、アラシ。ゴーストに聞いたことじゃが、何か変化がったようだな」 片側の眉だけを器用に上げて、ダンブルドアは言った。 小声で、どうやらアラシにだけ聞こえるように話したいらしい。 その白髪の向こう側では、うねうねと謎の植物が動いている。 アラシはアールグレイを一口飲み、笑いすぎて乾いたのどを潤してから答えた。 「さすが情報が早い。まだ日もたたないのに」 意思を汲み取り、ささやきで返事を返す。 しかしダンブルドアは、顔を険しくさせた。 「遅いほうじゃ。お前が自分が言い出さないものだから、わしはずいぶん苦労した」 ふ、と息を吐き、一瞬老いの気配を見せる。 アラシは小さく笑った。 「お茶会だなんておかしいと思ったら、そういうことでしたか。友達を連れてきて正解だった」 マフィンをほお張っていたピーターを見やる。 目が合うと、彼はわたわたと背筋を伸ばした。 さらにシリウスへ視線を移すと、紅茶のカップを、警戒するように匂いをかいでいる。 こちらには気付いていないようだ。 そこで首をリーマスへ向ければ、彼は紅茶片手に微笑んできた。 「アラシもマフィン食べるかい?」 「おいしい?」 「最高だよ。僕、ここに住めるなら何もいらないかも」 ダンブルドアが、「おやおや」と笑う。 アラシはマフィンに手を伸ばしながら、白髪の老魔法使いに声をかけた。 「呼び出しの真意は」 「さて、なんだったか。年を取ると、忘れっぽくなる」 くすくす笑ったダンブルドアは、紅茶を一口飲んで「まだ熱いの」とぼやいた。 まるで彼の口調に同調するように、後ろにあった植物の動きがゆるくなる。 マフィンをほお張ると、控えめな甘さが口に広がった。 これは確かに、おいしい。 歴代の校長の写真から、わざとらしいいびき声が聞こえている。 マフィンを食べ終えると、アラシはため息を吐いて、校長に微笑んだ。 小声で話す意味が、無い。 「とぼけないでください。用事があったのでしょう。俺と、俺の友達に」 「えっちょい待って。なんだ、どういうことだ?」 案の定、答えたのは、問うた相手ではなかった。 シリウスが、紅茶のカップを置いて身を乗り出している。 返事をする前に、彼は続けて「ただのお茶会じゃなかったのか?」と怪訝そうな顔をした。 ピーターとリーマスも顔を見合わせている。 アラシは、「そうだね」と頷いてダンブルドアを見遣った。 心外だったといわんばかりに、彼はこちらを困った顔で見ている。 「用件をどうぞ、校長先生」 アラシはにっこり笑ってうながした。 別に恨み辛みがあるわけではないが、からかいたくなる。 完璧な人間であればあるほど、その人物の欠点を見つけて安心したくなる。 もはやお茶会の主役はお菓子や紅茶ではなく、この場に招待した老魔法使いだった。 三人の友人達も、そろって興味深げな視線を向けている。 ダンブルドアはマフィンに伸ばしかけていた手を引っ込めて、髭を撫でた。 嘘のように長いそれが、ふわふわと手の動きに合わせて動く。 彼はしばらく考えるように髭を撫で続けたが、やがて決心でも付いたのか、ふいに切り出した。 「シリウス・ブラック、ピーター・ぺティグリュー、リーマス・J・ルーピン。この場にはいないが、ジェームズ・ポッターとリリー・エヴァンスにも後ほど同じ事を伝えよう。――アラシ・カンザキの“記憶”について、一切漏らしてはならん。アラシが信用に足ると思った者以外は、たとえ両親でもじゃ」 名を順番に呼びながら、それぞれの目を見据える。 歴代校長写真のどこかで、「ブラック?」と寝ぼけた声がした気がした。 アラシは、瞠目した。 そんな話、聞いたことが無い。 元々隠すつもりではあったが、そんなに真摯に厳格に告げるほどのことなのだろうか。 「どうしてですか。だって、悪いことじゃないでしょう……?」 ピーターが、消え入るように小さな声で疑問を口にした。 良いことでもなかったけれど、彼の言うことには一理ある気がした。 シリウスもその隣で頷いている。 リーマスに小声で相談しようとして目を向けたが、その視線が彼に向く前にダンブルドアが答えた。 「アラシも、お前達もまだ未熟じゃ。いつ、古(いにしえ)の記憶を利用されるかわからない」 諭すような口調に変わる。 ふと、合点がついた。 リーマスを見ると、彼もダンブルドアと同じく真剣な顔をしている。 ――それは、校長からの気遣い。 理由をつけて、秘密を守らせるためのもの。 “特別な目”で見られること、記憶に触れられることを、避けるための、もの。 顔を、伏せた。 欲しかった温かさを、彼なら思う存分にくれる。そんな予感が、した。 「ていうか、そう思うならばれるようなこと仕向けないで下さい」 心内を明かさずに、あえて軽い口調でそうのたまうと、ダンブルドアは茶目ッ気たっぷりに笑った。 「独りで抱え込むより、共有するほうがより隠せることもあるのじゃよ」 まるで哲学だなと、思う。 自然と笑みがこぼれた。 「ああ言えばこう言うのだから……わかりましたよ。そういうことにしておきます。つまり俺から話す分には、かまわないわけですね。スリザリン生とか、教授とか、司書なんかでも」 「お前が信じる者を、わしも信じよう」 ダンブルドアの瞳がちらりと光る。 一瞬何事かと思ったが、何のことは無い、日の光が反射しただけの話だ。 息が詰まる申し出に、返事が遅れる。 「……はい」 人選は慎重にしなければならないだろう。 それでいうと、リーマスを始め、シリウス、ピーター、ジェームズ――そしてリリーは、大正解だったのかもしれない。 ダンブルドアが、再びお茶請け(いつの間にか、マフィン以外にもごちゃごちゃと並べられている)に手を伸ばしている三人に向き直った。 「お前達も、良いかね? 誰にも言ってはならんぞ。秘密じゃ」 ぱちりと、いい年をして片目を閉じた合図を送る。 呆れるアラシなど捨て置いて、三人は即座に返事を返した。 「はっはい……」 「わかりました」 「元からそのつもりだったしな」 即答に、ダンブルドアが満足そうに笑う。 「では、お茶会再開じゃ。皆、時間はあるかの?」 「夕食までは大丈夫です」 リーマスが答えた。 その響きに、ぎりぎりまでここにいたいという欲望が、視えた気がした。 なんたって、お菓子が食べ放題だ。 ジェームズには悪いが、こんなに嬉しい午後は無い。 「では、のんびりお喋りと興じようか。わしも退屈していたところじゃ」 「校長が退屈しててどうするんですか」 朗らかな口調に、思わず言い返してしまう。 しかし校長は気分を害した様子も無く、紅茶のポットを手に取った。 「多少の休息をしても罰は当たらんじゃろう。おかわりはいかがかな、ピーター?」 「あっ頂きます!」 ピーターがさっと空になったカップを差し出す。 ダンブルドアは楽しげにそれへ透明な紅い液体を注いだ。 「やっぱりここのお茶請けは、おいしいなぁ」 「この辛いの、ハニーデュークスのじゃん。ラッキー!」 リーマスとシリウスは、お茶請けに夢中のようだ。 アラシも新たに増えだしたお菓子の一つに手を伸ばしながら、心の中でジェームズに謝った。 ――ごめん、すごく楽しいかもしれない。 - 50 - しおりを挟む/目次(9) |