月と妃と人質と。2







時は経ち、15歳年もの歳月が流れていた。
こちらでの俺は<シュラリーズ・ルヴレイ>といい、<ロナルド・ルヴレイ>の一人息子だった。

予想もしていなかったが、もう一度赤ん坊からやり直す事になった俺は、俗にいう英才教育というものを受けた。
こちらの言葉を理解することは容易かったが、文字の読み書きには苦労させられた。
なにしろ、耳から入ってくる言葉や俺が話しているのは日本語なのに何故か文字は英語でもなく、ドイツ語やイタリア語やフランス語でもない全く馴染みのないものだったのだ。ミミズの様な訳の分からない文字をどうにか言葉と結びつけ、ひたすら真似をして書き続けた。こちらの世界では文字の美しさには頓着しないみたいだったけど、俺は日本で自分の字の汚さに苦労させられていたから、字の美しさに拘って徹底的に練習をした。途中から直すのは、大変だけど最初からなら希望があると思ったからね。
その努力は正しかったと思う・・・。これだけは、自分自身を褒めてあげたいくらいだ。だって、今では俺の文字はまるで本のように整っている。おかげで、お父様や家庭教師からも感嘆の声をあげられたのだから!!


それはさておき、こちらの世界についていくるか分かったことがある。
まず、こちらの世界は5大陸に分かれいるということ。
大陸ごとに一国家が存在している。
小国は数多くあるものの、大国に吸収され国としての働きはしていないようだった。というのも○○国○○領として小国は存在してはいるが、あくまで領地としての扱いなのだ。
簡単にいうと、この世界には5つの国と5つの国しか存在していない、という事だ。
そして、俺が住む大陸は<アルファン>という大国であった。<アルファン>は5大陸の中でも軍事力が有名でその強行な政治が特に特徴的な国といわれている。
中にいる俺には分からないが、ナチスまでとは言わないが、どこか似た雰囲気をもっているのではないかと思っている。
それにしてもこちらでの俺の父親がルヴレイ公爵と呼ばれていて、現在の<アルファン>王の弟にあたる物凄く偉い人だったのには驚いた。
彼は・・・政治にはあまり興味がないのか、与えられた広大な領地を管理することに力を注いでいる様だった。
しかし時折、身なりの良い上品な男性たちが訪ねてきては父と何やら話し込んでいた。俺が小さい頃から続くその光景は何も珍しくなかったが、最近その頻度が多くなってきている気がする・・・・。


「妙だな・・・。」
シュラは本から顔をあげた。
まだ幼いシュラだが、どんな分厚い本も専門書だって読破することができるのは英才教育のおかげだろう。もちろん、シュラは本の内容も全て理解している。
「何か心配ごとでも?」
家庭教師のノイル伯爵が老紳士ならではの優しい顔でシュラの瞳を見つめた。
ノイル伯爵はシュラの父親ロナルドの家庭教師をもしていた優秀な人材だ。ロナルドは息子の才能に気付き、優雅な老後を楽しんでいたノイル伯爵を一人息子の為に口説きおとしたという。
そして今のシュラには油断ならない相手だった。
シュラは、思わず瞳に力をいれた。
「・・・最近、父を訪ねてくる客人が増えてきたと思いませんか?」
視線を逸らさず、ノイル伯爵の表情からも真実を探る。
しかしノイル伯爵は
「何が聞きたいのですかな?」
と、相変わらずの笑顔で返してくる始末。
(・・・・くそぅ・・・。)
それでも負けずにシュラは口を開いた。
「敵国の<ルーベンス>の動きが活発になってきているようです。それに伴っての客人の増加・・・・。気になっても仕方ないと思いませんか?」
「シュラリーズ様。ご詮索はほどほどに。」
窘めるように愛称ではなく本名で呼ばれる。
ここで引いてはならない。
それは、この数年で学んできた。
「私は自分の身を案じているだけだが?」
口元をあげて、伯爵を見つめる。
不敵な笑顔では決してない。
あくまで、美しい優雅なその微笑みは見ているものの心を掴む。
「・・・・卑怯ですな、そのお顔は・・・。」
はぁ、と息をつく伯爵にシュラは満足したように笑みを深くする。
父親譲りのプラチナブロンドと亡くなった母親譲りの紫の瞳と顔はシュラの最大の武器なのだ。
(ほんと、美形ってお得だよな。)
そう思わずにはいられない。
男である自分が<アルファン>で一番の美女だったお母様似というのは、複雑であるが。

「戦争か・・・政権交代か・・・。」
どれもしっくりこない。
シュラはペンを無意味に走らせる。
「お父様は何をお考えなのだろう。戦争にも政治にも興味がないはずだよ。」
「シュラ様の仰る通りでございますよ。」
砕けた口調になったシュラに苦笑しながら伯爵が頷いた。
「・・・・怖いね。」
「・・えぇ。ロナルド様は昔から、シュラ様の様に聡い方でしたから。」
「でも、私よりもずっと・・・。」
「腹黒い方でございます。その点、シュラ様はお優しくて素直ですよ。」
どちらにせよ・・・・

「国民を悪いようにはしないだろうけどね。」
シュラは優しい見た目の美男子である父親を思い浮かべた。
その実、とても腹黒い・・・・そして自分にとっては特別な父親を。







あとがき。
道のりが長すぎる。

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