月と妃と人質と。3
「くっ!」
シュラは思わず声を発した。
衝撃が強すぎる!
思わず剣をもつ手に力が入る。
駄目だ、接近戦では勝てないっ!
ぐっと力を込め、振り払う。
「ハッ!」
その瞬間に後ろに飛び退いた。
「はぁはぁ……」
駄目だ、勝てない!既に息があがってしまっている。
肩が上下に動いているのが自分でも分かってしまう。
「ここまでだな。」
にっと口角をあげてワイルド系の美男子が近寄ってくる。
「また負けた・・・。」
英才教育と両親譲りの頭脳と運動神経のおかげである程度はこなせる俺だが、剣術だけは苦手だった。重い剣は持つだけで体力を奪われる。振り回せば振り回すほど疲れ、体重移動をして一撃を重くしてみたが体格の良い相手には意味がない。相手にも大きなダメージを与えられずに疲れきってしまう剣術は俺には合っていないことが分かる。
「そう落ち込むなよ、シュラ。」
慰めようとおかれた手が大きくて少しだけジェラシーを感じる。
「もともとお前は細すぎて剣なんか持てる体格じゃねーんだ。筋肉だってつきにくいしな。」
「バルド先生・・・・。」
(それは男として情けないんじゃ・・・。)
「お前は貴族の中じゃ剣の腕は上の方だぜ?」
「兵の中に入れば中の下です。」
「家柄的にシュラは指揮官クラスでの出兵だぞ。お前自ら戦う必要はない。」
「こんなに弱くては兵がついてきません。」
間髪入れずに答える俺に先生が眉をしかめる。
「何を焦ってる?」
「この国の行く末ですよ・・・。」
ふむ、とバルドは腕を組んで考える仕草をする。
「シュラ、頭のいいお前を欺けるはずがないから言うが・・・。確かにもうじき戦争になるだろう。」
「はい。」
そうだろうとも!とシュラは力強く頷いた。
「だが、それは今までの戦争とは違う。」
はぁーと大きな溜め息をついてバルドは目の前の美しい子どもを見つめた。
「ロナルドが動く。」
やっぱり・・・。
しかし、父親はこの国をどうするつもりなのかが分からない。裏を読む自分は裏の裏を読む父親には適わないのだから。
「俺とタギはロナルドにつく。」
思わずバルドを見上げた。
そんな・・・。
つまりそれは・・・。
特別部隊隊長のバルドと第一部隊隊長のタギがつくということは、すなわち
「アルファンの軍事力を手に入れたも同じ・・・。」
くしゃっと髪を撫でられる。
「お前は俺たちが守る。」
(今度は死なせない。)
あとがき。
2013.05.26 一部修正しました。
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