月と妃と人質と。4






しばらくして戦争がはじまった。

5大陸5国の中でも大国である<アルファン>と<ルーベンス>の戦争は国民にも他国にも影響を与えるはず


だった・・・・・。




「どういう事だ?」
ロイは凛々しい眉をゆがめた。
<ルーベンス>の若き王は、黄金の髪をもちその瞳は海を連想させる。
長身でしっかりとした体躯をもちながら、ワイルドな雰囲気は全くなく気品と王者ならではの風格がある。
その誰もがハッと息をのみ、ひれ伏してしまいそうな雰囲気をもつロイが眉をしかめ不快そうにつぶやいた。
「もう落城も間近といったところですね・・・。」
ロイの側近、レンが不思議そうに首を傾げる。
「アルファンは我が国と並ぶ大国であり軍事国ですよ。こんな戦争がはじまってから2日で簡単に攻め入ることが出来るなんて有りえません。確かにおかしなことです。」
「・・・・誰かが裏で糸をひいている。」
まさかっ!とレンがロイを見る。
「そんなはずはありません!<ルーベンス>の者なら私たちが知らないのはおかしいですし、<アルファン>の者だったとしても自国を敗戦国にする馬鹿がどこにいるんですかっ!」
ドンッと机を叩くとロイは呆れた様にため息をついた。
レンのヒステリックはいつもの事だが、毎回そのキンキンとした声で怒鳴られれば嫌になるのも当然である。
「・・・・だが、気になることがある。」
それまで黙っていたグレン・シュヴァリエが口を開いた。
黒髪で日に焼けた肌とロイよりも筋肉の多いしっかりとした身体は、近衛隊隊長に相応しいといえる。
「・・・・アルファンの兵の動きが妙だと報告をうけた。」

国境近くで<アルファン>の隊に遭遇し戦闘になってものの、すぐに<アルファン>の隊が退避したという。それどころか、<ルーベンス>の進行方向には全くといって<アルファン>の隊が姿を見せないというのだ。それそう・・・まるで敢えて進行を邪魔しないかのように・・・。

「気になったんで、俺も前線に向かってみたんだが・・・・。俺がくるのを見計らったようにタギ殿が現れた。」
「・・・アルファンのタギ・・といえば、第一部隊隊長でバルド隊長の弟か。」
<アルファン>のバルド、タギ兄弟は有名だった。
その強さは様々の噂とともに各国に広がるほどだ。そしてそれは、ほとんどが真実であった。





隊の先頭で荒々しく手綱を操って登場したグレンにタギはにやっと口角をあげて笑った。
「やっと来たか。ロイ陛下の直属のものが。」
「・・・・それはどういう事だ?」
グレンがタギを睨みつけるが、あまり効果はなかった。
「ルーベンスの邪魔をする気はないということだ。俺達は王には興味がない。」
王には興味がない・・・?
王には?

「王には興味がない。・・・では、誰に興味がある?」
グレンの言葉にタギは一瞬驚いた顔になり、グレンをマジマジと見た。
「・・・・ただの筋肉馬鹿ではないんだな・・・。いや、失礼。これは喜ばしい誤算だ。」
報告すればさぞお喜びになるだろう、とタギは笑った。
「無駄な時間は過ごしたくない主義なんだ。俺の役目は終わった訳だし、俺らは撤退する。
このまま城近くまで進むのもよし、ロイ陛下に報告するもよし、どちらでも好きな方を選べばいい。」
「手のひらで踊らされるのは、俺もロイも嫌いだ。」
グレンが不機嫌そうに言うと、タギを始めとする第一部隊が笑った。
そりゃそうだ、と頷く<アルファン>の兵たちに<ルーベンス>の兵が騒がしくなる。
誰しも自分の尊敬する上司を馬鹿にされれば、怒りたくなるのも仕方のないことだろう。
その血気盛んな部下たちを視界にもいれず、グレンは何かを考えている様子だ。
そして、小さく頷いた。
顔をあげ、タギの鋭い視線を真正面から受け止めた。
「・・・・こちらもこれ以上は進まん。タギ殿の言う通り、陛下にご報告あそばせよう。

そちらにあの方がついているのであれば、こちらも無闇に動くと失礼にあたるからな。」

そして、今度はグレンがにやりと笑う番だった。
タギは目を見開き、驚きのあまり言葉をのみ込んだ。
そして、タギの部下は迷うことなく引き返すグレンの後ろ姿に上司がかけた言葉を予期せず聞くことになった。
「グレン・シュヴァリエ・・・・面白い男だ。
さすがは、真の王者につき従いしもの・・・といったところか・・・。」
しかし、当のグレンはその言葉を聞くことは叶わなかったのだが。











グレンの話を聞いたロイは一層眉をしかめた。
「つまり・・・お前は、ロナルド様が裏で糸を引いているのではないか?という結論に至った訳か。」
「俺にはそうとしか考えられん。親父の話では、ロナルド様はバルド殿、タギ殿から忠誠を誓われていた人だ。ロナルド様なら、アルファンの軍事力を動かせる。」
ロイは頭を抱えた。


分っている。

分ってはいる。
しかし、認めたくない。

ロナルド・ルヴレイが関わることに関わりたくないのだ。


言い表せないほどの重くるしい空気の中、あのー・・・・と気まずそうな声を発したのはレンだった。
「・・・すみません、ロナルド様というのは?」
存じ上げないのですが・・・・とレンはロイとグレンを交互に見る。
そんなレンにロイは、一瞬だけ不審そうな目を向けたが、すぐに納得がいったのか苦笑した笑顔で書類を手渡した。
「あぁ・・・レンは知らないか・・・。20年前に政治から離れた人だからな。

ロナルド様は・・・あぁ、今の俺の立場的にはロナルドと呼ぶべきだな。

彼は、現アルファン国マクシミリアン陛下の実の弟だ。おそろしく頭のよい方で、今のアルファンがあるのはあの方のおかげだといってもいい。」
「詳しくは俺らも知らんが、何せ10歳そこらだったからなぁ。お前は赤ん坊か・・・。
紫の瞳を手に入れたのではないかと噂が広がったぐらいだ。俺の親父も前国王のロイの親父さんもロナルド様に一目置いていた。」
お前、会ったことないのか?とグレンがロイに訊ねる様子をレンは茫然と見ていた。

・・・・紫の瞳・・・。
本当に、存在するのか・・・・?


「一度、お会いしたことがある。現役のころではなく、公爵になられた時だがな。
物腰は柔らかいがこちらの裏の考えする読みとろうとする瞳が恐ろしく怖かった記憶がある。父上は『ロイ殿はすてきな王になれそうだ。』と言われたことに異常なほどに喜んでいたがな・・・。」

出来れば関わりたくない!と騒ぐ二人をレンは思わず怒鳴りつけずにはいられなかった。
「なら、なぜ・・・・アルファンに戦争をしかけたのですか!!!???

そんな曲者のいる国に戦争をしかけるなんて恐ろしい!
もっと作戦をねってからしかけるもんです!!」

すると、なんとも気まずそうに視線を逸らす二人。
(全く!こういうところは本当にそっくりだ!!)
幼馴染同士の息のあった行動にレンの目が更に吊りあがった。
「・・・ロナルド様なら見て見ぬふりをすると思ったんだ。
アルファンの国民は重税に苦しんでいるし、ロナルド様は国民第一の方だったから俺たちの思惑も見抜いていらっしゃると・・・・ってロイ!!!」


「そうか、それか・・・・。」

あの方は本当にすごい。
国を捨てる覚悟でこんなことに協力して下さるなんて。






あとがき。
2013.05.26一部修正





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