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「おいで。」
低く甘い…そして優しい声だった。
聞きほれてしまいそうな美声である。

シュラはゆっくり男に歩み寄り、促されるままに男の横に座った。

まじまじと男を見る。
なぜなら…


「お父様と同じ緑の瞳。すごく…綺麗……。」
「お前はあの女とは違うのだな。」


そっと髪を撫でながら言われた言葉に首を傾げた。
「……美しい髪だ。」
肩までのびた髪を優しく撫でられる。
そこでシュラはフードを被っていないことに気付いた。
外に出る時はいつも被っていたのに!!

「帰ります。」
不安になったシュラはそう言って立ち上がった。

「そうだな…。」
すると男も立ち上がる。男は生気のない白い肌と濃い隈のせいで陰湿な印象を与えていたがよく見れば大変、男らしい美しい顔をしていた。洗練された優雅な足取りはすぐ近くにある白薔薇の花壇でとまった。

丁度、花壇の目の前のベンチは白薔薇を愛でるために置かれたものなのだろう。
なるほど、良い趣味だ。


感心していると男が一つ、白薔薇を手折った。

美しい白薔薇を手に何かをしている。何をしているんだろう、と思った瞬間に白薔薇を差し出された。


「私はこの緑の瞳を褒められる事が一番好きだ。そして……その色の髪を撫でる事が……一番の幸せだった……。」


シュラは白薔薇を受け取ると暫し考えた。男の言葉の意味を。









「白薔薇はお父様が一番好きなお花です。」男は何も答えなかった。その代わりか一度、愛しそうにシュラの頭を撫でた。
行けと目で合図され、シュラは優雅に礼をして来た道を戻った。


「知っている。」
そう聞こえた気がして一度振り返ったが、男は既にベンチに座っていて顔をみる事が出来なかった。





パタンっと窓をしめ、白いソファーに腰掛ける。

(どういう事?)
やたら含みのある言葉の数々に16歳+αの頭脳をもったシュラでさえ頭がパンクしそうだ。

(お父様だったら…分かるかな……)
頭の良い父に聞けばヒントが貰えるかもしれない。
男は暗にこの薔薇を父に渡せと言ってきたのだし、父とは知り合いなのだろう。

そんな事を考えていると父が戻ってきた。
慌ててソファーから飛び降りて父を迎えに行く。
「ただいま、シュラ。いい子にしてたかい?」
「はい。……お父様、これを。」
シュラは早速、父に白薔薇を差し出した。

「?」
白薔薇を受け取った父の顔が曇った。

(あれ…?)
「シュラリーズ、手をみせてごらん。」
父はそう言うとシュラの小さな手をくまなく見た。
「怪我はしてない?痛いところめないかい?」
「ありません。」

そう…と頷く父はますます切なそうな顔をする。
その瞬間、シュラと目線を合わせるためにしゃがんでいた父がうずくまった。

ぎゅうと大事そうに白薔薇を抱き締める父はとても弱々しく……

「おとう…」
そう言いかけた時、シュラは父の抱き締める白薔薇の茎に血がついてるのに気付いた。


(…棘をとっていたんだ!!)
あの時、男がしていたのは棘をとっていたのだ。
シュラの手が………いや、父の手が傷つかないように!!




「あ……っげを……さ…っ白薔薇が…いっ………き…です…。」
嗚咽のような父の声にシュラは言わなくては!と思った。

『知っている。』
今、言わなくてはいけない気がする…。
あれはシュラに向けられた言葉ではなく、きっと父に向けられたものなのだから。


「知っていると言っていました…。」

すると美しい緑の瞳から涙が溢れた。

そんな父を見るのは初めてでシュラは何も聞けなかった。

そう
何も……。


あの部屋は病気で伏せていた前王にかわり既に実権を握っていたマクシミリアン王が弟の15歳の誕生日に贈ったものだと後から知った。








随分と昔の事を思い出していた。
「…私も白薔薇が一番好きだな。」

父が愛した花だから……。
そう言って横に座る男に寄り添った。
すると逞しい腕が腰にまわり、身体を引き寄せた。

「知ってるさ。」

言い合える幸せ
寄り添える幸せ

(お父様……。)
『貴方が棘をとって下さる白薔薇が一番好きです。』

父はあの時
確かにそう言った。



【白薔薇を貴方に】


END



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