Merry Christmas

「雪だ!」

シュラは、窓から見えた雪に興奮して叫んだ。
いくらこちらの世界では、8歳の子供といえど
修の時は高校生で雪で喜ぶなんて事はなかった。
どうもこの身体に入ってからというものの
時々、どうしようもなく胸が躍る瞬間が訪れる。

今更、雪ごときで・・・と理性では思うのだが、
なぜかわくわくしてしまう。

「お父様!外にでてもいいですか?!」
暖炉の前でソファに座っていた父は、目尻を下げて笑う。
「いいよ。ただし、夕食の時間までには戻っておいで。


今日はクリスマスだからね。
クリスマスは家族と過ごすものなのだから・・・・。」

父の緑の瞳が鮮やかに輝いた。




【Merry Christmas 】


「綺麗・・・。」
空を見上げ、シュラは呟いた。
庭師自慢の庭にうっすらと雪が積もっている。
曇り空から時々のぞく太陽の光に反射して雪がキラキラと光る。
ごろりっと芝生の上に転がって両手を広げると
この美しく広い異世界の土地がとても愛しく思えてくる。
しかし、目を閉じるとうっすらと頭に浮かんでくる風景は、
<アルファン>では見ることのない、更に美しい街。
その街にも雪が降っている。
整った美しい街並みが雪で包まれる。
子ども達が笑い声をあげながら、走り回る。


愛しくて切なくて、この国を・・・・
いや、あれはどこの国?
あの美しい国は・・・・・



「シュラ、風邪をひくぞ。」
身体が浮遊する感覚に驚いて、シュラは目を開いた。
「バルド先生!」
がっしりとした体躯の男は、シュラを担ぎあげる。
「先生!こんにちは!」
ぎゅうと首に手を回して抱きついたシュラにバルドは優しく笑いかける。
「今日はどうした?元気いっぱいだな。」
いつも冷静なシュラは、とても子どもらしいとは言えない子どもだ。
群を抜いた頭脳をもつシュラは、大人びた表情をする事が多い。
今日のように大声をだすなど皆無といっていい。
「雪が降っていたので。」
にっこりと笑う姿は、息をのむほど美しい。
(末恐ろしいな・・・。)
伝記に登場する傾国の姫達よりもシュラは美しく育つだろう。
きっとこの世界中の全ての国々が欲するほど、美しく育つに違いない。

この子どもの美しい瞳が悲しみの色彩を浮かべる時がくるのだろうか?
いや、そうならなければ、いい・・・。
この心地よい柔らかな声音が、悲劇の嘆きを紡ぎださなければいい。
眩しいほどに光輝く髪が輝きを失わなければいい。
白い美しい手が血に染まらなければいい。


しかし、
紫の瞳をもち、更にこの容姿とは・・・。


神はこの子どもに試練を与えるつもりなのだろうか?
この我々の愛し子に。


「シュラ、久しぶりだね。」
「タギさん!」
バルドは背後からの声に我に返った。

「シュラ、メリークリスマス。」
タギがシュラの柔らかな髪を撫でる。
シュラは照れたように笑った。
シュラは、まだまだ幼い子ども。
自分たちが保護する対象だ。
いつか自分たちの手を離れるまで、その時まで守ってやればいい。
そして今はただ、この平穏が長く続くことを願うしかない。


「シュラ、そろそろ夕食だよ?戻っておいで。」
普段は静かな威圧感のある声が今は柔らかな声をだす。
バルドがシュラを地面に降ろしてやると、
シュラは『はい』と返事をして父親のもとへ走る。
ロナルドはしゃがみ、シュラを一度抱きしめた。
シュラを離すと、頭を撫でて執事の前まで誘導した。
シュラは、ロナルドの後ろに控えていた執事に小言を言わながら、柔らかなタオルで髪をふかれている。
バルドとタギもシュラに続いて屋敷に足を踏み入れ、ロナルドの横にたって、執事とシュラの微笑ましいやりとりを眺めていた。



「バルド、タギ。
私はあの子とあと何度、この日を迎えられるだろうか・・・?」
寒さのせいか、ロナルドの声は震えていた。
ハッとロナルドを見れば、彼はこちらを見ようともせず、シュラだけを瞳に映していた。
吐いた息は言葉にならず、動かした唇は形をもたなかった。


「シュラ、クリスマスは家族で過ごす日なんだ。」
だから、離れるその日まで一緒に・・・・・。

【END】


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