孝彦が優人をつれて風呂からあがると腹にくる良い匂いがする。


リビングに入ると部屋は充分、綺麗に片付いており食卓にはサラダとオニオンスープが用意されている。

「よいしょ!」
キッチンでフライパンを手にする春の足下にはパジャマ姿の理人がへばりついている。

孝彦はその暖かい雰囲気にむず痒さを感じて、食卓の椅子に座っても全く落ち着かなかった。
腕の中にいる優人もいつもと違う雰囲気に気付いているのか大人しい。

「あぁ、あがったんですね。はい!優人くんはこっちに座ろうね。」
春は孝彦から優人を受け取り、赤ちゃん用の椅子に座らせた。
春が優人に向かってにっこり笑うと優人も嬉しそうに笑い返す。
世話をしている女性や志保の前では決して笑わなかった優人なのに……。
孝彦はまじまじと優人を眺める。

「さっ!理人くんも席について。」
理人はこくりと頷き、椅子によじのぼった。
それを見て我に返った孝彦は慌てて手を貸した。
春はそんな孝彦を嬉しそうに微笑みながら見ていた。

それに気付いた孝彦は春のまるでよく出来た息子を褒めるような慈愛のこもった微笑みになんとも言えない照れくささを感じた。


春がそっとケーキを箱から取り出せば、理人がうわぁ…と声をあげた。
三本ローソクをたてライターで火をつける。
春はそのケーキを理人の前に持っていってやる。
「ハッピーバースデー!理人くん3歳の誕生日おめでとう!」
ほら、と目で合図をされ「理人、おめでとう。」と何とも素っ気ない声を発してしまった。

でも分かっている。春はきちんと分かってくれている。これでも孝彦が頑張って祝っていることを。

孝彦が買ってきたケーキの上に乗ったチョコレートプレートにはしっかりと『りひとくん、おめでとう』と書かれている。誕生日の祝い方が分からないと言っていた孝彦はアタフタしながら店員に理人の名前を告げたのだ。
それに気付いた春はケーキにのったチョコレートプレートを指差し理人に「ほら見て!ここにりひとくん、おめでとう!って書いてあるよ。良かったね。」と言っていたのだから。

「さっ!ローソクの火を吹き消して!ふーっだよ、ふーっ。」
春がお手本を見せてやれば、理人は真似をしてローソクの火を吹き消した。
「わーおめでとう!」
春はパチパチと拍手をして理人の頭を撫でてやっていた。

孝彦には、この居心地の良い暖かい空気を作り出した春が眩しくて仕方がなかった。

こんな暖かい気持ちになるのは初めてでどうしていいか分からない。

しかし


(手放したくない…)

そう思っている自分がいた。

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