「はーい!理人くん!オムライスには何を書きましょう?」
出来上がったばかりのほかほかのオムライスを前に春はケチャップを持って立っていた。

「?」
理人は不思議そうに可愛らしく首を傾げる。
「理人くんは、動物は何が好きですか?」
「にゃーちゃ…」
「猫ちゃんですか。分かりました〜。」
ひょいひょいとケチャップで春は絵を書いていく。
「はい、どーぞ!」
「にゃーちゃ!しゅごい…はるちゃん、しゅごい!」
興奮のせいか頬が真っ赤だ。
その様子に春が満足そうに頷いていると、ズイッと目の前にオムライスを差し出された。
「えーっと……」
戸惑ったように差し出してきた本人、孝彦をみると無表情にみえる顔。しかし目が期待に輝いているような気がする……。

「んー」

春は暫く考えてオムライスに「たかひこ」と書いてやる。
無難な選択だ。
駄目だったかな?と孝彦を伺えば、どこか嬉しそうである。

無表情無愛想な男に思えたが、よく見れば表情がコロコロと変わるようだ。

(可愛いな。)
ついつい顔が緩んでしまう。

慌てて顔を引き締めると春は自分のオムライスに『はる』と書き、優人の前に離乳食を置いた。

「ではいただきます!ケーキもあるから食べ過ぎないようにね。」
春のその一言で食事が開始した。



「おいしい…」
一口食べた孝彦が思わず…といったように声にだした。
理人も夢中でオムライスを頬張っている。

「良かった。」
春は胸を撫で下ろす。
孝彦や理人の口に合うか心配だったのだ。

「あー!」
「あぁ、ごめんね。はい、あーん。」
いつの間にか離乳食を食べさせる手が止まっていたのだろう。優人がもっとくれ!と声をあげた。

「手慣れているな…。」
「あぁ……施設育ちなんです。小さい子の面倒は僕の仕事だったので慣れてるんですよ。」


8歳までは母と2人暮らしだった。貧乏でも楽しい生活だったし、母はとても優しかった。だから、母が倒れた時は申し訳なさと情けなさで胸がいっぱいになった事を思い出す。

自分がいなければ、もっと楽な暮らしが出来ただろう。
子の欲目をぬいても美人だった母は、自分がいなければ幸せな結婚が出来ただろう。


何も出来ないお荷物だった自分が本当に情けなかった……。



息をひきとる直前の『春がいたから幸せだったのよ』という母の言葉が春を救ったのだが。

「…施設に行ってからも、それなりに楽しかったですけどね。」

でも寂しかったのは確かだ。まだ小さな理人や優人がその寂しさを味わうのは可哀想だった。
「そうか…。」
孝彦はそれだけ言うと、また食事に戻った。







「そろそろ、お暇しないとな…。」

興奮していた2人を寝かしつけ、片付けをすました春はリビングでノート型パソコンにむかう孝彦に声をかけた。


「そろそろ帰ります。」
そう言いながら孝彦の為にいれたコーヒーを机の上においた。
「あ…あぁ…。今日はありがとう…。」
いつの間にコンタクトをとったのだろう?
…眼鏡姿の孝彦も素敵だ。

「いいえ。今日は僕も楽しかったです。また何かあれば……いや…、失礼します。」



しかし

玄関に向かうはずの身体が動かなかった。




右手を孝彦に掴まれていたのだ。




「たかひこさん?」
振り返った春の顔を見つめながら、両手で春の右手を握られる。
困ったように目を泳がして、言いたいのに言葉がでてこないのか時折『う……だからそのなんだ……』と呟いている。


そして

目があった。


「…その……私は君にまた来て欲しいと思っている。」
「え?」
「だからなんだ……つまり……理人や優人も君がいると楽しそうだし、ご飯もうまいし…家事もできるし……君がいてくれれば仕事に専念できるし……。


いや…ちがうな……。」



ますます強く手を握られる。





「私は理人や優人と一緒に笑う君を見ていたいし、君にこれからも会いたい。」


春は孝彦に真っ直ぐ見つめられていた。





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