「…部屋がすごい事になっているのだが……構わないだろうか?」
気まずそうにきいてくる孝彦。
「なら僕のアパートで!…って優人くんのオムツとかがないし駄目ですね……。」
「我が儘を言っているのは私だ。君が気にすることはない。」

孝彦は後部座席のチャイルドシートに優人を座らせた。
「理人。」
理人は孝彦の呼びかけにこくりと頷くと、自分からチャイルドシートに座った。ベルトをつけるのに手間取っている理人に春が手を差し伸べようとすると、孝彦が反対側から身体をのばしてベルトをしめてやる。
その行動はとても自然に見えた。


助手席に促された春は(もちろん車のドアは孝彦が開けた)初めての高級車に居心地の悪さを感じながらも素直にのった。



「あの子たちは兄の子どもなんだ。」
衝撃的な言葉に春は運転する孝彦を思わず見てしまった。
「私と兄は母親が違う。そして理人と優人も…。」
後部座席に座る優人はすやすやと寝ているし、理人は流れる景色に夢中でこちらの話を聞いてはいないようだ。
「あの…子ども達が……。」
「いいんだ。理人は理解している。私が引き取る前は施設にいたし周囲からも散々言われている。」

施設……

「児童養護施設だ。」

だから孝彦は父親ではなく保護者と言ったのだろうか。他人の自分が込み入った話を聞く訳にもいかず、春は相槌をうつだけにとどめた。








「こ…これは……。」
孝彦の部屋は汚いというよりまるで空き巣に入られたような状況だった。
呆然と立ち尽くす春に孝彦は気まずそうな顔をする。
「こんな所に子どもはおけません!」
春はキッと孝彦を睨みつけ、他の部屋でましな部屋に三人を押し込んだ。

「ご飯の用意もするので、少し待ってて下さい!」
「あ…あぁ。」




「よしっ!」
春は埃をかぶっていた炊飯器を綺麗に洗い、米をとぎ炊飯ボタンをおした。
その間にリビングに散乱していた服やタオルを抱え洗濯機に放り込む。ついでに風呂場も綺麗に洗い上げ、お湯をはった。それから窓を開け、ひとまず物を一カ所に固め、夜にも関わらず掃除機をかけた。騒音が……なんて気にしている暇はない。ご近所になんて構ってはいられないのだ。ある程度、片づいけると三人を呼び風呂に入るようすすめた。驚くことに孝彦は赤ん坊の入浴はこなせるらしい。生真面目な顔で「習ったから大丈夫だ。」と言った孝彦が何だかおかしかった。
とりあえずは、と理人をつれてお風呂に向かった。

一方、春は玄関先においてあるクリーニング済みの塊の中からパジャマやタオル、下着を見つけていた。

「こんなものまでクリーニングするなんて信じられない…。」



両親を早くに亡くし、幼い頃から施設で暮らしていた春にとって孝彦のような人の生活は信じられない。

本来なら孝彦と春は一生関わることがなかったはずだ。


でも理人と優人の事情を聞いて春の中で何かしたい、という思いがうまれてしまった。

どこか自分と重ねてしまったかもしれない。

(あの子たちには幸せになって欲しいな。)
そう思わずにはいられなかった。



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