春は、無表情ながら少しばかり眉をさげる目の前の男を不思議そうに見つめていた。
はじめて見た時、みるからに高級なスーツを着こなしたエリートサラリーマンの男に驚いた。

こんな男が父親だなんて……失礼だが子持ちにはとても見えなかったのだ。


そして泣き続ける理人。よく分からないが、どうやら今日は理人の誕生日らしいのだ。
その事実にこの男は戸惑っている様だ。

「あの…」
春は孝彦に声をかけてみた。
「あ…すまない。その……。」
言いにくそうにもごもごと口を動かし、意を決したように孝彦は春を見た。
「誕生日は何をすればいいんだ?」

あまりの事に春はぱかっと口をあけた。



(どうしてこうなったんだろう?)
春は片手に赤ん坊を抱き、ズボンの端を理人に掴まれカートを押していた。

「理人くんの好きな食べ物ってなあに?」
目線を理人に向けて微笑んでみせれば、照れくさそうにもじもじと体を春の足におしつけてくる。
「…おむらいしゅ。」
「そっかーオムライスが好きなのかぁ。今日は理人くんの誕生日だからオムライスにしようね。」
こくこくと嬉しそうに頷く理人がなんとも可愛らしい。

そして横で居心地悪そうにしている
この男も。
いかにもエリートサラリーマンという美形の男性がスーパーに現れれば注目を集めてしまうのは仕方がないだろう。

「すまない、春くん。優人をもつよ。」
春は手を差し出してきた孝彦にそっと赤ん坊を手渡した。
「孝彦さん、優人くんと一緒に外で待っていてもかまいませんよ?」

春の言葉にじゃあ、そうさせてもらう。とそそくさと出口に向かう孝彦に思わず笑ってしまう。


あの後、施設に電話した孝彦は職員に理人の誕生日を問い合わた。すると確かに今日が理人の誕生日で、職員が言いにくそうに謝ってきた。
職員は孝彦に理人が引き取られる際に「あと六回寝たら誕生日なのよ。新しいお家で祝ってもらってね。」と言ってしまったのだという。


電話を切った後、誕生日の祝い方が分からないという孝彦に春は必死に説明し、どこか不安そうな顔を向けられ思わず『僕も祝わせてください。』と言ってしまったのだ。
スーパーに行こうと外にでるとベンツがとまっていたり、そのベンツの中に泣き疲れて眠る優人がいたりと随分驚かされたのだが。

「理人くん、おてて繋ごう。」
材料をマイバックに詰めた春は理人としっかりと手を繋いでスーパーをでた。
孝彦の姿を探す春の背に声がかけられた。
「春くん!すまない。」
走ってくる孝彦は随分と大きな四角い箱を持っていた。
「……それは?」
「ケーキだ。」
言い切った孝彦に春は目を丸くする。

「それにしては大きいような……って二個も買ったんですか?!」
なんと箱が重なっていた。それは大きいはずである。
「分からなくて……駄目だったのか…。」
落ち込む孝彦に慌てたのは春だ。
「違いますよ!量は人それぞれですしね!すみません、余計な事を言いました。」

ほっと息をつく孝彦がなんだか可愛いと思ってしまうのは何故だろう?
春は少しばかり高鳴った自分の胸が信じられなかった。


「理人くん、良かったね。孝彦さんがケーキを買ってくれたよ。」
自分たちがスーパーで買い物をしている間に買ってきてくれたのだろう。
きっちりとセットされた髪が乱れ、額から汗がでている。
「…けーき……」

嬉しそうな理人に春は微笑み、孝彦はなんだか照れ臭い気持ちに動揺していた。

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