「はい。」
ゾクッと腰にくる声だった。

「…え〜と、すみません。間違えました。」
理人の携帯にかけたはずが間違えたのだろうか。
「間違ってませんよ!りひと君のお父様ですか?」
「保護者です。」
途端、あぁ良かった!と安心したような声が聞こえる。
「りひと君、喘息がでちゃって…。もう落ち着いたんですけど送っていくにも外は寒いし住所も分からなくて……!」
電話の相手はどうやら若い男らしい。随分と良い声だが女にしては声が低かった。
「喘息?」
そんな話は聞いていない。
しかし、そう言われてみれば時々咳き込んでいた気がする。
訝しむ声が聞こえたのだろう。不思議そうな声が返ってきた。
「いや、ご迷惑をおかけしました。迎えにいきます。住所を教えて下さいますか?」
孝彦は時々、相槌をうちながらメモをとった。
「はい、お願いします。」
ピッと携帯を切り、車の鍵を手にとった。そこで見つめる涙目に気づく。
「お兄ちゃんを迎えにいくぞ。」
それだけ言うと片手で抱き上げていた赤ん坊の髪を撫でてやった。









「ここか。」
花屋の隣のアパート。階段をあがり一番奥の部屋の前に孝彦は立っていた。

ピンポーン
思ったより大きな音が響いた。

「はじめまして。えっと座間さん?」
出てきたのは黒髪のほっそりとした青年だった。
しっとりとした黒髪に大きくはないが形の良い目。右目の泣きボクロがなんとも色っぽい。白い肌は滑らかそうで、これまた形の良い唇はぷっくりとしていた。

(これは……)
無意識にごくりと喉がなった。

「どうぞ、あがってください。今起こしますね。」
「…あぁ。」
意外な外見に出鼻をくじかれて思わず部屋にあがってしまった孝彦はむわんとした湿気に顔をしかめた。
「りひと君、お父さんが迎えにきたよ。」
抱き上げて背中をポンポンと優しく叩く。
お父さんという言葉にビクッと体を震わせて理人が青年の服をぎゅうと掴むのが見えた。
「お父さんじゃない。保護者だ。」
孝彦は青年の側に行き、理人を見る。
怯えを浮かばせていた瞳が孝彦を捉えた途端、色をかえた。
「理人、なんで出て行ったんだ?」
静かに問いかける。
「…たんぞーび……」
「ん?なんだ?」
「たんぞーびなの!」
うわぁぁぁん!と泣き出した理人を青年が慌てて抱えなおした。
「なんだ?」
如何せん子どもと接した事がない。
何が言いたいのかどうして泣き出したのかも分からない。
呆然とするしかない。
「もしかして今日が理人くんの誕生日なんじゃ……」
「…………。」
そう言われてみれば施設の職員が何か言っていた気がする…。
孝彦は顔をしかめた。


『理人くんは3歳なんですよ。』
だから3歳だと思っていた、間違いないじゃないか。
『もうすぐ。』
………とも言った気がする。その時は泣き喚く赤ん坊に気をとられていて、あまり話を聞いていなかった。
つまりは『3歳なんですよ、もうすぐ。』という事だったのだろう。


「てっきり、もう3歳なのかと思っていた……。」


孝彦は泣き続ける理人を見つめ、複雑そうな顔をして呟いた。


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