「どうして、こうなった………。」

座間孝彦は、一週間前とは大違いな部屋のありさまに大きな溜め息をついた。

美形で185cmの長身で仕事も出来て金もある。これでモテないはずがない。


女性に不自由のない生活を送ってきたせいか、1人にしぼる事ができず33歳で未だ独身。おかげで入れ食い状態は続き、もう独身でいっか!と開き直った男である。

輸入品を扱う会社で秘書室室長という大層な肩書きをもつ、海外ブランドのスーツを着こなす彼は頭を抱えて自宅であるマンションの玄関に頭を抱えてうずくまった。


なぜなら

廊下の先、リビングの開け放たれたドアのその先には……

倒れた観葉植物
床にこばれたミルク
割れた食器



そして



泣き喚く赤ん坊とその赤ん坊を抱え、ヒステリック怒鳴る女性の姿があったからだ。


仕事で疲れた彼の耳に騒音としか思えない音が入ってくる。

あんなに可愛かった彼女の顔はまるで般若のよう。

仕事で疲れて帰ってきた身体には視覚的にも聴覚的にも更に疲れる状況だったのである。

孝彦は覚悟を決めて立ち上がった。逃げていてもこの状況が打開できる訳がないのだから。

「何があったんだ?」
「孝彦!聞いてよ!この子、全然言うこと聞いてくれないのよ?!」
孝彦に気付いた志保が赤ん坊をベビーベットにおき、孝彦の腕に絡みついてくる。グロスがたっぷりとついた唇がキスをねだるように動くのを孝彦は冷めた目で見つめた。

こんな風に自分に媚びる暇があるのなら、目の前の赤ん坊をどうにかしろ!

「……理人(りひと)が見えないようだが?」
志保を引き剥がし、孝彦は赤ん坊を抱き上げた。赤ん坊の目もとは泣きすぎで腫れている。
「…知らない、出て行ったわ……。」
志保は言いにくそうに言葉を発した。
「こんな時間にか?」
時計の針は18時をさしている。大人にとっては、何てことのない時間だが3歳の理人が1人で歩くには物騒な時間だ。
孝彦は眉をしかめながら水に濡らしたタオルで赤ん坊の目もとを冷やす。
気持ち良いのか先ほどまでの強烈な泣き声はおさまり、変わりにえぐえぐと愚図りはじめた。

「勝手に出て行ったのよ……」
「お前はもう帰れ。」
はぁ、と重い溜め息をつく。
「何よ!早くこの子たち、どうにかしてよ!私は家政婦じゃないのよ!」
たった一週間……しかも平日の5日間、子どもの面倒を頼んだだけでコレである。


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