「あれ?」
その当たり前な日常がちょっとした変化をみせはじめたのは11月に入ったばかりの頃だった。

6時ぐらいに閉めちゃって〜、という透の適当な指示に従ってシャッターをおろそうと店先にでた春は思わず声をだした。

店先のベンチにちょこんと2歳ぐらいの男の子が座っていたのだ。珍しいお客さんに春は首を傾げた。


「こんにちは、お名前は?」
春は男の子の前にしゃがんだ。
「……り……ひと…」
小さな声だったが、しっかりと聞こえた。
「りひと君かー。はじめまして、僕は広瀬春です。」
「…はるちゃん?」
まさかこんな小さな子どもにすら、ちゃんづけされるとは……。

「うん、そうだよ。」
安心させるように、にこりと春は笑った。すると、男の子もつられたのか控えめにはにかんだ。
「横に座っていいかな?」
「うん。」
春はゆっくりとベンチに腰掛け、そっと男の子を観察する。
りひと、と名乗った男の子は目鼻立ちがハッキリとしていて随分と可愛らしい。将来はイケメンになるだろう。

しかし18時とはいえ、冬にさしかかったこの季節にこんな小さな子が1人で出歩くには危険である。
あたりは暗い。
それに…
「はい、これ羽織ってね。」
春は自分が着ていたパーカーを羽織らせてジッパーをきっちり上まであげた。
男の子が着ている服は長袖だが、薄い素材で寒そうだったからである。
「お母さんかお父さんはどこかな?」

するとどうだろう?
先ほどまできちんと答えていたのに、急に口を噤んでしまった。
キュっと唇を噛み締めている。

(い……家出とか?)

こんな小さな子が両親を恋しがらないなんて、喧嘩でもしたのだろうか?
春は困ったように首を傾げた。

警察に連絡すべきか考えていると横からコホコホという咳が聞こえてきた。
時折、痰がからまるのかウッ!ゴホッという苦しそうな呻きがあがる。
「風邪ひいちゃったかな?」
やはり寒かったのだろう。
心配になって春は男の子を抱き上げて、自分の膝に座らせた。おでこに手をあてるが、どうやら熱はないようだ。
男の子は一瞬、驚いたように目を見開いたが苦しいのか春の胸に頭を押し付けた。
呼吸のたびに肩があがっている。
ヒューヒューという音が聞こえる。


まさか……






春は慌てて男の子を抱き上げて店の奥に引っ込んだ。





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