○ あの永遠の星の意味
【高校生と高校生】
組み敷いた相手の唇に唇落とす。
ほら、夜みたいだろ。大きな窓に映るのは、降りる夜の藍色と目を伏せたところの太陽だ。
空の裾野じゃまだ赤く、夕焼けの日が燃えている。それに照らされて夜の帳は白く赤く、橙の色から、やがて空は夜になる。
そら、あすこに小さな一番星。それを筆頭にして、裾野は星が光始める。
あれ、何だか知ってるかい。甘い甘い口づけのあと、オレは花井にそう言った。
白く凍ったようの、色素の薄い、灰色の瞳が星みたいに瞬く。そして薄っぺらいくせに大きい口が、オレ以外は聞こえない声で言葉を返した。
「星だろ」
「ちげえ、こんぺいとう」
「バッカ」
「嘘じゃねえ。作り方、教えてやる」
ひそひそ声って星が瞬くみたいだろ。だからさ、甘い甘いこんぺいとうは、唇から作るんだ。
すきなひとと唇合わせて、すると、ぽっと甘い味がするだろ。そうしてちゅって音をたてると、空へするする上っていって、あそこらへんで光るのさ。
どうだこれで分かったろう。オレはにっと笑うのに、けれど花井ったら夜を見てる。空の、あの星を見てるんだ。
もう空は藍色ひとつ。ちらちら瞬く星と月を見て、花井は言う。
「おまえ甘いの好きだろう」
「こんぺいとうもドロップスも好きだぜ」
「なら食っちまやいいだろう」
「打ち上げっちまう前に? いいよ、あれはちょっと、苦いから」
そう答えたら、花井は笑った。
きれいだなあって思ってしまった。
「おまえ、何でも知ってんだな」
「……うん、そう。何でも知ってんだよ。あすこのあすこの星も、オレが作ったんだもん」
「誰と?」
「花井と。あすこのは一昨日のやつ。あすこのは半月前のやつ」
「今のは?」
「まだ空に届いてないよ、こんぺいとうが星になるまでは、時間がかかんだ」
にやにやしてオレを喋らす花井は、目を細くして話を聞いてる。
そうして、そろそろ我慢できなくなったんだろう、大きな手のひらがオレの体に触れた。
途端、反対に組み敷かれてしまった。夜と朝が交代するみたいに、そんなん一瞬だった。
覆い被さるのはそれらとおんなじ。きっと相手を征服しちまいたいんだ。
「あれ苦いんだって?」
「おお、そう。甘いばっかりじゃねえよ、人間が作んだもん」
オレは花井の腰に脚を絡ませて。花井はきれいに唇で弧を描いて、大きな手のひらでオレの頭を撫でる。
好きだよって言外に滲ませて、丸い瞳がオレを見つめた。
ああこういう目、知ってるよ、何だったっけな。散らかった頭の中を掻き分け掻き分け探すうちに、答えは自分から降ってきた。
「じゃあ、おまえを食べちまおうかな。そしたら甘いばっかりだ」
「……ああ、そりゃいいや。花井の舌の上でとろけて、なくなっちゃおうかな」
「飴玉みたいにずっと舐めといてやるよ」
「そりゃいいなあ」
そりゃいいなあ、そりゃあいい。
そうしたらさ、もうこれ以上、甘くて苦くてきらきらしたこんぺいとうを増やさなくって済む。
これ以上につらい思いなんてしなくって済む。いつか一人で夜空見上げて、かんたんに崩れるこんぺいとうを、食べなくたって済むんだもの。
食べて欲しいな。そう願ったって、また目を開ける頃にはあの星が光ってる。
愛しさと願いと諦観で出来たオレの星。
でもオレは忘れてたんだ。あのこんぺいとう、口づけで出来るんなら、花井の思いもそこにあるって事。
優しくってきれいでずっと光ってる星の意味。
ほとんど永遠の星の意味を、いつか信じて報われたらって、願わずには居られないんだよ、花井。
―― Night, it fills with the wishes of us.
いただいたリクエストの派生
「『あの星』は甘くて、しかしたちまち儚く消えてしまう、ほろ苦い味」というすてきなフレーズがギュンときたので、こんぺいとうのお星様を掘り下げてみました!
フレーズが美しいです! そしてわたしはまた便乗するっていう!