○ あついあつい。
【高校生と高校生】
昼間の青色からずっとずっと色調を落として暗くした空の下。コンビニからもれる光をみんなで背負って部活帰りのおやつを食べる。
おにぎりとか、菓子パンとか、からあげとか。とくにこの頃は暑さが続いて、今日はとびきり暑かったから、アイスが人気だ。
みんな手に手にかきごおりバーを持っている。財布にもやさしいし、チョコやラクトアイスみたくべたつかないからだが、そんな中の少数派に手ぶらの田島は声をかけた。
「花井、ぱるむちょーだい。」
「おまえ、自分の買ったろ。」
「ガリガリもう食った。だからぱるむ。」
ちょーだい、と子どもみたく田島が花井の手のものをねだる。
かきごおりバーが主流の中、花井と巣山は前者がチョココーティング、後者がマンゴーのそれを手にしていた。
暑いには暑いがふたりともなんだかそういうのが食べたい気分だったのだ。マンゴーのが後に発売されて、ふつうはそれが食べてみたいと言うだろうに、田島は味なんかでなく単に花井のがいいだけだ。
そしてねだられた花井はしょうがないなあ、という顔で一口かじっただけのアイスを田島に向ける。田島は差し出されたアイスの棒を自らが持つ事なく、餌付けされるように大きなひとくちを頂いた。
ぱるむうまいとご満悦の田島と、ひとくちでかすぎと眉をひそめる花井。その近くで一部始終を見ていた水谷が言った。
「なんで田島なんの躊躇もなく花井の食ったとこ目掛けて食うの」
「花井の二口目もだ!」
「田島は計画通りだろうけど、花井は?天然なの?なんなの?あいつらもうマジどうにかして」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎ」
みかん味のかきごおりバーを食べていた水谷がどうにかしてくれ、と嘆くと、隣でソーダ味のを食べるでもなくもてあそんでいた泉が不穏な声をあげ始めた。
どうやら自分も部活帰りにいちゃいちゃしたいのに、彼氏がバイトでここにいない事が大変不満らしい。
「ちくしょおぉ!オレだっていちゃついてやるうぅぅ」
「泉ー!近所迷惑だから泣きながら走り去るのやめてー!」
「なに、どしたの泉?」
「なんか変なこと口走ってなかった?」
うわぁあん、と叫んで自転車で走り去った泉に他の部員が気をとられている間に、花井と田島はこっそり距離を縮めていた。
「くちにチョコついてる。」
「え、どこ?」
「とれてない。…ったく、わざとらしい誘い方して。」
「へへ。ばれた?」
わざと大きなくちで食べてつけたチョコを、みんなの隙をついて花井がとってくれる。
離れた唇が田島にも見える頃にはあの薄っぺらな舌は隠されてしまったけれど、二人は目を見合わせてこっそり笑った。
露骨なようでいて、秘密が好きなの。
大好きな遊びは舌に残るチョコレートの甘さより彼とするキスに似て、ご機嫌の田島は上目遣いに花井が触れたところをいたずらっぽく舐めてみた。
―― My favorite flavor is.