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置き傘


 慣れないマンションの玄関で最後の会話。
 銀色のドアノブに手をかけ振り向く。


「そんじゃな!」

「ああ、気ぃつけろよ。」


 軽い挨拶だけを交わしてそれ以上も以下もなく、ドアを閉めてしまえば金属一枚向こうの今までいた世界は既に遠い遠いものになる。
 蛍光灯が煌々と光るコンクリートの廊下から空を見ると、来たときに降っていた雨はすっかり上がってしまっていた。

 これなら、傘を置いてきたことも自然な説明がつくだろう。
 傘立てに入れたビニール傘は、忘れたんじゃなく置いてきた。


 また彼の家に行く口実を作るために。
 恋愛ってのは駆け引き上手が勝つもんだろう?



―― i think the winner of
this match is me, you know.


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