365 | ナノ

Category:浜田と泉
2013 15th Jan.

★ 失言

【高校生と高校生】


 夕日の中で白球を追うその姿。

 まるでいつかの彼そのままで、茫然と見つめる自分はひどく灼ける腹に手を当てて、襲う痛みと憧憬とにただ疎んでいた。

 言ってはいけない言葉があった。

 何度も何度も飲み込むうちに喉は爛れ声を失い、溶けきらなかった飴玉に似たその熱は腹を転がり内腑を灼いて回る。

 両手で口を塞いでも最早止められない。



 言ってはいけない言葉があった。

 けれどそれは自分の切望だった。
 

「………、」

「なあ泉。」

「………、」

「今のオレと、昔のオレと、どっちが好き?」


「………っ、」


 悲しい顔をさせる事はわかっていた。
 それでも口にした言葉なのに、唇にだけ笑みを刷いた彼の表情に絶望した。

 彼は昔の彼と違う。
 今の彼は星が見えるまでグラウンドにはいられないし、体も昔のように自由が利くわけではない。
 今の彼にはそれができない理由がある。
 我が儘を言っているのは自分のほうだ。困らせたいわけじゃない。力になりたい。

 それなのに彼を困らせたのは他でもない自分が吐露した言葉のせいだ。
 自分が一番に切望するもののせいだ。


「なあ。どっちが好きだよ。」

「オレは、浜田が好きだ。」

「今のオレと昔のオレは違うよ。」

「オレが悪かったから。…もう言わないから。」

「いや。こっちこそ、ごめんな。泉」


 ごめんな。本当に一番欲しいもの、あげられなくて。
 傷付けた筈の彼にそう言われて、腕の中で少し泣いた。
 好きな人の腕の中なのに、憧れた人がもういない事が悲しくて悲しくて仕方がなかった。


ーー i want to play again with you.


一年365題 より
1/15「 失言」
※1/14とトレードしてあります


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部活を手伝いに来てくれる浜田に堪りかねて、「野球やろうよ」とでも言ってしまった話。
浜田がもう一度野球するには病院通ったりなんだりいろいろと金銭的なものとかがあるでしょうし、無理だと思うけれど、やっぱり一緒に野球がしたい。
三橋も言っていたように、泉にも浜田といっしょにした野球の楽しさが野球好きの根底にあるといいなと思います。
その為に野球をしていた本当に格好良かった浜田の姿を追いかけていたらいいなあ…と思ってしてしまいました。

今まで甘あまなものが多かったので、ちょっとダウナーにしてみました。
今日はあまりにも時間がなくて、早く書けるようにポエムちっくにしたのに一番の難産だったという空振りぶりです。
笑ってやってください。



 
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