Category:花井と田島
2013 16th Jan.
○ 朝の食卓
【社会人と?】
皮を剥いたじゃがいもを薄く切り、水で洗ってレンジに入れる。
温める時間は一分と少し。その間に片手鍋に水を入れ、次いで顆粒ダシと昆布つゆも適当に入れて火にかける。
朝食なんて割と簡単だ。一から作るものといえば味噌汁くらいなもので、あとは出来合いのものとか前日の残り物とかで十分おかずになる。
少し明るくなってきた外の光が台所にも入ってくる。蛍光灯の下でてきぱきと動く花井はレンジから加熱されたじゃがいもを出し、温まってきたダシ汁の中にそれを入れると、今度は冷蔵庫に向かった。
鍋がもう少し温まってくれるまで、簡単にあと一品欲しい。納豆を一パック出し、付属のからしとたれを入れて、洗い物を出さないようにパックの中で混ぜてしまう。そこへおかず海苔を千切って乗せ、薬味に刻んだ葱を散らせばこれで出来上がりだ。
あとは味噌汁。ふたを取ると湯気が散り、あと少しで沸騰するところまで来ていた。
「はないー…。」
「はよ。いま飯出来るから、先に顔洗ってこい。」
「あーい…。」
タッパから味噌を掬ったところで後ろから声がかかった。
起こさなくても自然と起きてくるのは、日頃のそういうくせだからか、はたまた朝食の匂いにつられたのか。花井はちらりとだけそちらを見るが、手の動きは止まらない。
味噌は煮ないほうが香りが良いというのが母の言だ。カットわかめを入れたあとに味噌を溶き、一拍ののち火を止める。
またちょうど良いタイミングでグリルにセットしていた鮭も焼き上がった。両面がしっかり焼けていて、焼け焦げのついた皮では未だに脂が跳ねている。
半身ずつ皿に取り、盆に乗せる。他には炊きたての米と味噌汁も乗ったそれを食卓に持っていくと、先ほどの彼が洗面所から戻ってきた。
「わ、うまそー!すっげー腹へった!飯食おう!」
「ちょ、田島!座る前に箸持ってこい!」
「はいっ」
用意した朝食を美味そうだと評してくれるのは嬉しいが、多少は手伝いもして欲しい。
皿をすべて並べ終え、箸も据えて二人が揃ったら朝食だ。合掌。
「いただきます。」
「いただきます!」
いただきます、の言葉は好きだ。朝食はしっかりと摂りたいから、それなりに毎朝ちゃんと献立を考えて作るが、この一言はその手間隙と、これから栄養になってくれる食材への感謝の気持ちももちろん含まれているから素晴らしい。
自分も声に出しまた向かいの彼からもその言葉をもらい、今朝も満足して箸をとった。
「おー…。」
「あったまるなあ。」
「うん。すげーしみる。美味い。」
布団から出た時はまだ薄暗かったが、今や空はだいぶ明るい。今日も良い天気になりそうだ。
とは言っても冬の朝はやはり寒く、一口目は自然と味噌汁の椀につけたくなる。
二人して味噌汁をすすって息をつく。中からじわりと温まるので、自然と二口目も同じ椀になる。
そういえば味見はしなかったがちゃんと美味く出来ていた。もう何年も毎日毎日作っているから、身についた感覚が一番美味しい味になるような気がする。
「ああぁ、うめえ。」
「そりゃどうも。」
「なー花井、」
「ん?」
「これから毎日オレに味噌汁つくってよ。」
十分温まったところで白米に納豆をかけていたら、味噌汁のじゃがいもを食べている彼にそんな事を言われた。
なんだか大昔に、そんなプロポーズの言葉があったような気もするが。
深い事は考えずに納豆飯を口へ運びながらいいよと答える。
味噌汁なんか味噌とダシと最悪葱で作れるしと軽い気持ちで言ったのだが、妙に喜んでいる彼にもしかして本気でプロポーズだったのだろうかと気付いてしまう。
まあ、別にいいか。味噌汁おかわり、と椀を出されて新しくよそいながら、この食卓も結構幸せだし、なんて思ってしまった。
ーー Say Yes!!
一年365題 より
1/16「 既に死語」
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お題が「既に死語」というか伏線が表に出すぎて「味噌汁」みたいになりました。反省。
社会人花井に対して田島は野球してたらいいなあと思って「?」にしてみました。たまのお休みに花井のところに遊びに来て、次の日の朝の話 というつもりでしたが味噌汁味噌汁言い過ぎて入れられませんでした。
余談ですが私は納豆を一日一パック以上食べないと気が済みません。
じゃがいもの味噌汁も賛否両論とは思いますが、私は好きです。
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