Category:花井と田島
2013 11th Jan.
○指先から融ける様に
【高校生と高校生】
黒一色の世界に街灯が続く夜の中で雪が降る。
粉と牡丹の合の子のようなそれらはライトに当たると浮かび上がり、その光の及ぶ限りは夜と対照の色が無数に舞っている。
中途半端に暗いよりも、明るいほうが黒は濃く濃くなるのらしい。
黒と白とまばらの明かりしかない世界では、より冷えようというものだ。
「寒い。」
「あん?」
落ちる雪に混ぜて呟いた言葉さえ、自分の前をゆく彼は拾ってしまう。
今誤魔化したところでどうせまた口をついて出るのだ、何だよ、と強い目力を注いでくる彼に同じ言葉を繰り返す。
「寒い。」
「なんだ。」
「暖かいとこ行きてーよ。」
もっと南の方とか。温泉でもいーや、と現実逃避を始めてみる。
露天風呂ならむしろ雪の降る頃がいい。空気が冷たいからあまりのぼせないし、熱いお湯につかりながら白くなった景色をぼんやり眺めるのもいい。
いや、もう家の風呂でいい。そろそろ早く帰って暖まりたい。
帰ろう、とやや早足で、立ち止まっている彼を追い抜く。すると彼は花井とこの名を呼び止め、それに振り向けば彼の為にあるように街灯がひとつ、彼としんしんと降る雪とを夜に浮かび上がらせていた。
「なに。寒いから早く帰ろうぜ、」
「だから寒いんだろ。ほら。」
「え?」
夜と同じ色の黒いコート。その両腕はなぜか開かれ、彼はほら、と促してくる。
なんなのだろうか。彼が何をしたいのかわからずじっと見つめると、彼のほうも見つめ返してくる。
「ここ暖けーよ。暖かいとこがいいんだろ。」
口の端をくっと上げ、そうのたまった彼は笑う。
本気でそんなこと言っているのだろうか。まじまじと彼を見てしまったが、いや、冗談のようで実は結構本気だったりすることもあるし、ひと気はないとはいえ往来でそんなことできるかと一応お誘いの返事は返す。
けれどいっぱいに広げられた両の腕は空でさみしそうだ。だから片方の手を伸ばし、彼の左手を右手でとる。
そうして結び目をぎゅっと固くして引き寄せれば、一度は追い抜いた彼と肩を並べて歩いてゆける。
「へへ。あったかい?」
「おまえ体温高いからね。」
並ぶとこの肩ほどの高さから笑ってくれる彼の手は、手袋越しでもその熱が伝わるほどあたたかだった。
ああ確かに。べつに遠くへ行かなくたって、一番身近なこの熱が、一番心地のよいあたたかさだ。
ーー to be melting point.
一年365題 より
1/11「暖かいところに行きたい…」
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