Category:浜田と泉
2013 10th Jan.
★ 六花よりなるぼくの名は
【社会人と大学生】
雪を踏んで歩を進めると、買い物帰りのエコバッグがぶらぶら揺れる。
ショッキングピンクのその中には頼まれた醤油とお茶っ葉の他に、泉が勝手にレジカゴに入れたスナック菓子が入っている。
最早アパートの部屋は目の前だが、泉は立ち止まるとマフラーから首を少し伸ばして息をついた。
細い吐息は白くなって空へ消え、その後はひとひらが大きいぼたんの雪がはらはらと空から降ってくる。
昨日の夜から降り続く雪は、高さのない泉のブーツのつま先くらいならゆうに埋めるほどの高さになっていた。
ふらふらふらふら、曇天からけずれておちるぼたんの雪。
新雪はやわらかく、踏むとさくりと崩れるのみでそのほかは音もない。
そういえば子どもの頃は、雪はおもちゃだった。降り落ちるそれらに紛れて静かに膝を折った泉は、積もった白へ手袋を触れる。
まだ汚れのないまっさらの雪。黒い手袋の上にとられたそれはこれから何をしてくれるのだと言わんばかりにこびりつき、なんとなく、子どもの頃によく作ったアレを作る気になった。
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「ただいま。」
「おー、おかえりー。」
「いいにおいする。」
年甲斐もなく雪の上へしゃがんでから、十五分くらい経っただろうか。
やっとこそれをこさえて泉が部屋へ戻ると、買い出しを頼んだ浜田は、玄関を開けてすぐの台所に立っていた。
今日の夕飯にするロールキャベツを煮込んでいるのだ。肉ダネをすべて包み終わったところで土鍋にだし汁だかスープだかを作り、火にかけたところで泉はお使いを頼まれたから、今は灰汁でもとっているのか。
おたまを片手にエプロン姿で迎えてくれた浜田に、泉は外で作ったものを差し出した。
「これやる。」
「え、何、おまえ雪だるまなんか作ってたの?うはっカワイー。」
「外けっこう積もってたぜ。」
泉が作ったのは、片手に乗るようなほんの小さな雪だるまだ。目と鼻と口はわざわざ手袋をはずして指で書いてやったので、右手が冷えてしまった。
そんな泉の両手を、受け取った手乗り雪だるまを適当な小皿に乗せた浜田は自分の手のひらで包む。
ずっと火のそばにいた浜田の手は温かく、冷えきった泉のそれをじわりじわりと融かしてゆく。
大好きなその体温は、ヒーターにあたるより、カイロを揉むよりずっと優しく暖かだ。泉は黙ってそれを受け入れながら、ちらりと浜田の顔を見ると、目が合ってしまった。
泉ありがとう、と浜田が笑う。
ああ火より熱より体温より、この笑顔がこの胸をずっと暖かくしてくれるのだ。
ーー Yes i 'm a snowman
made from 2 hearts.
一年365題より
1/10「雪遊びといえば」
高校卒業ののち浜田は就職、泉は大学進学で、お部屋は泉の学校の近くに借りて二人で暮らしている設定なのですが文中に出せませんでした。
泉は浜田と過ごす時間がないといやなのでバイトは単発しかせず、だいたいは基本平日休みの浜田とごろごろしている感じで。
浜田がごはんとかしてくれるので泉がごろごろしてます。
醤油代もお茶っ葉代も浜田からのおこづかい。
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