365 | ナノ

Category:阿部と三橋
2013 9th Jan.

☆ 過保護。

【高校生で七組九組】



 水谷はお昼休みの時間が好きだ。
 にぎやかだし、おしゃべりが長くできるし、お腹がぐっと空いた頃にごはんが食べられるし、みんな楽しそうだから一番好きな時間だ。
 そうして今日のお弁当は、昼休みになるとたくさん食べ物を積んでやって来る業者さんから買ったパンだった。
 ピーナツバターのパンがおいしいからよく買うのだが、今日は授業が早く終わったので、いつもは売り切れてしまう焼きそばパンとかメロンパンも買ってしまった。

 ぜんぶ食べたらお腹が張るかわり、瞼がゆるんで落ちてくる。このまま寝ちゃいたいなあとぼんやりしながら、紙パックのヨーグルトをひとくち飲む。
 と、教室のドアが開いた。誰が戻ってきたんだか知らないが、眠くて気にもならない。

 はずだったのだが。


「よー、花井いるー?!」

「見りゃわかんだろ、叫ぶなおまえは毎回毎回!」

「いたいたー。これさ、テスト返ってきたから見せに来た。」


 がらがらがらー、とドアが開いて、やかましいのが現れる。
 この声は田島だ。何やらプリントを携えた田島はまっすぐに花井のところにやって来て話を始める。
 九組では冬休み明けに小テストがあったとのことで、その結果の報告に来たらしい。
 一緒に机を囲んでいた水谷もいちおう声をかけられたが、眠たくて生返事になってしまった。


「お、マル増えたじゃん。」

「うん。やっぱ花井が教えてくれたとこ出たよ。」

「英語はうちのクラスのが進んでっから、そういうのならいくらでも…。まあ、よくがんばりました。」

「へへへー!」

「次もこれくらい取れば期末もいけんだろ。」


 まるで先生といったふうの花井に褒められ、田島は光の強い目を細めて嬉しそうにする。
 部内でずば抜けて野球のうまい田島は、部内でずば抜けて学校の成績がやばかった。そのため部長である花井が監督命令を受けて勉強を見てやっている。
 花井の得意科目は英語などの文系だが、田島に教えられる程度には理数だってできる。
 つまり田島を丸投げされてしまっているのだ。面倒見が良いというのも大変だ。
 自分もひとの事は言えない成績だがその事は棚に上げ、水谷は大変だなあと眠たい瞼をとろかせる。
 最早頭は半分夢の中の水谷だが、隣の阿部はお構い無しに話しかけてきた。


「てことは、三橋も結果が出てんな。」

「んー…?んー…。」


 話しかけられた、と思ったのだが、阿部の言葉は会話のためのそれではなく、その人物を呼び寄せるための呪文だったらしい。


「た、田島く。」

「三橋。」

「うおっ、ああああべく」

「オメー、テスト返ってきたってな。どうだった。」


 どうやら三橋も来たらしい。ちなみに部内でずば抜けて成績の危うい田島の次点は三橋である。
 花井は部内認定の田島専属講師だが、阿部は別にそういうわけではない。
 なのにやたら気にする。花井はまんべんなく他の部員や水谷にも気を配ってくれたり勉強を教えてくれるが、阿部は頼まれない限りまずない。
 ていうか三橋の心配しかしない。聞くところによると三橋の体重の心配までしているようだが、阿部って何なんだろうか。たまにこっちが阿部の心配をしてしまう。


「おおおおあの」

「三橋は前とかわんねぇよな!」

「うぇ。」

「…オメーも後で、花井に山張ってもらえ。」


 瞼を閉じていても三橋がうろたえまくっているのがわかる。だから上から目線が恐いよ阿部。
 ちなみに阿部は数学が得意ではあるが、教えるのはからっきしだ。ていうかわからないと「なんでわかんねぇんだ」と蔑まれるので、教わるなら西広にお願いしたい。西広はスーパー専属講師だ。


「あ、オレ、田島く。つぎ、移動」

「ハァ?」

「あーそっか。三橋迎えに来てくれたんか。」

「そ、教科書とか、泉くん、が。」

「泉が教科書持ってってくれてんならこのまんま行くか。じゃあ花井、オレ行くわ。」

「寝んなよー。」

「三橋。ちょっと待て、」
 

 阿部の声がする。一拍置いて、三橋の声。


「あ、あめ。」

「寝そうになったらそれ舐めてろ。」

「阿部ー、オレにはー?」

「ねェよ。」


 どうやら阿部は三橋に飴を放ったらしい。しかもそれ一個だけで田島は無視だ。

 阿部は毎日、三橋を過保護にしている。
 ちょっと度が過ぎると思うが、当の三橋がありがとうと嬉しそうにするので外野は心配くらいしかしない。
 もしかしたら、需要と供給は成り立っているのだろうか。


「…あいつ大丈夫かな。」


 今度のは完全に一人言。
 阿部、やっぱおまえちょっと気にしすぎ。


ーー too much = lack


一年365題より
1/9「気にしすぎじゃない?」



 
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