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2013 23rd Apr.
(魔) 月の昇る丘
【魔王番外】
月の昇る丘がある。
丸くまるく皓皓と照るその石は、ただひといろに青い夜空の底のほうを翔んでいる。
気付くか気付かないかの微かな速度で、それでもあの天体は広い夜空の中心に据わろうと確実に空へ昇ってゆくのだ。
その真っ青の舞台にはひとつとして雲はなく、月から降る光は細雪の姿を模してしんしんと丘へ降り積もる。
この無数の光を受け止めるのは、これもまた白い花。六枚花弁を先まで伸ばし、とにかく月から注ぐ光を取りこぼすまいと昼よりも華やかに咲く。
これらが群れをなして拡がるさまは、まるで月のようだ。
光を受けてうすら輝くため、月にはこの花が一面に咲いているから白いのだとされる。
ただ、そう物語る人より多く、月はたましいのゆくところと言われている。
こんなふうに月の花が咲きそろう夜は、これの発する光に乗ってたましいが月へ還るという。
だから、かれはこの丘に花を揃えた。
かわいそうに自分のせいであの天体へ還れないたましいのために、彼の眠るこの丘を小さな月に仕立てあげた。
だけどそれもあと少し。もうひとりの彼がここに辿り着くまで、それまでだからとぽつりこぼして、暗闇の中のかれはひとり夢を見る。
「もうすぐだ。そしたら、」
また会えると言う唇に、久方振りの感情が浮かぶ。
あまり嬉しくて一年振りに黒以外の夢を見た。
あのこは泣いていたけれど、もはやひとでなしのかれはそれより、彼に会える事が嬉しいのだ。
―― Here is not yet, Heaven.
一年365題より
4/23「世界を見下ろす丘」
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