365 | ナノ

Category:浜田と泉
2013 22nd Apr.

★ 恋をしているあの子のはなし

【周りから見たある高校生】


 
 最早桜の花も散り、乾いた校庭に残るのも春の残骸だ。
 この四月にどうにか二年へ進級した梅原は紙パックのストローを噛みながら、家庭科室の窓から外を見ていた。

 うららと言うべき四月の空はやや青みが強く、その上へまんべんなく雲をかけて春らしい陽気を地上へ注いでいる。
 空気は言うまでもなく暖まり、こんなすてきな天気の日に、まったく一体誰が退屈な授業を受けたいなんて思うのだろ。

 けれど午後一番の授業が始まり十分が過ぎた時点で、コンビニの袋に入れたささやかな抵抗のおともも残り僅かとなってしまった。
 窓から入る風が袋をかさかさとおもちゃにしているその横には、悪友の梶山が顔にまんが本を乗せて昼寝をする。

 そんな安らかな昼下がり。おれもそろそろ寝るかな、とぼんやり思った梅原の視界のうちで、生徒の塊がわっとはけた。
 梅原の眼下に広がるのは、家庭科室の窓に面するグラウンドだ。
 運動日和の空の下で体育の授業をしているのはおそらく一年生だろう。彼らとは一年しか変わらないが、一ヶ月前まで中学生だった彼らはやはり幼く見える。
 その中でも細くて小さいのに混じっている金髪頭を見つけ、ストローを弄んでいた梅原は悪目立ちしてどうするんだか、とパックに残っていた最後の一口をすすった。

 あの頭ひとつでかい金髪頭は浜田といい、去年は梅原や梶山と同じクラスでつるんでいた奴だ。
 梅原もけっこうギリギリだったが、浜田は単位どころか日数すら足りずに留年してしまった。今のところは真面目に来ているらしいが、一ヶ月も経たないうちから安心するのはまだ早い。

 今も勉強は出来ないのだろうが、クラスに溶け込むのはうまくいったようで数人とじゃれている。
 今日の内容はサッカーらしい。体育は数クラスが合同で行う為コートを小さくして試合らしいものをしている。
 一年の中に他に知り合いもいないので浜田を中心に眺めていると、現在彼が親しくしているらしい面子がだんだんわかってきた。

 小さな一年坊の中でも特に小柄で元気なやつと、それにくっついてる挙動のあやしい跳ねっ毛頭、あとは男なんだろうが、黒髪を耳が隠れるまで伸ばしている女子みたいな顔のやつの三人がそれだ。ちなみに梅原たちがいる家庭科室はグラウンドに接しているとは言え、顔まで見えるのは目の良い梅原だからこそわかるのだ。
 試合のようなものをしてはいるが、コートを小さくしてやる程度のもので、やっているほうは遊び半分だ。


「どいつもこいつも、ちーせーなァ。」


 梅原もよくふざけるが、十五程度の小さいのがじゃれていると子どものそれに近い。
 その中で浜田はあの元気がいいのや跳ねっ毛の頭を触ったりして調子を合わせている。今も何事か話しかけてきた黒髪の頭を適当に撫でていて、その手の陰に見えた黒髪のほうの表情が、なんとなく梅原の気に引っ掛かった。

 浜田が黒髪の頭に触れたのはわずかの時間で、黒髪のほうから手を振り払う。
 子ども扱いされればそりゃあそうだろう。特に高一なんてお年頃な少年なんだし、と思ったが、ちょうどパスが浜田に回り彼が離れてしまうと、黒髪のその子はふっと目を優しくして、遠のく浜田を見ていた。

 目が大きく、長めの髪も相まって女顔の子だ。けれど生意気そうな目付きは梅原の周りにもよくいるそれで、やはり年齢どおりの少年なのだ。
 なのに一瞬見せたあの表情は何か。跳ねっ毛頭が彼と二言三言交わしたが、その顔は変わらない。そうして跳ねっ毛頭がいなくなると、その大きな目は浜田のほうを見ている。

 何だろう。浜田本人も知らないものを、見てしまったような気がする。
 いつの間にか結構な時間外を見つめていた梅原は、午睡が途切れたらしい梶山の声で久方振りに日陰へ目をやった。急な明暗の変化で目がしぱしぱする。


「…何だおまえ、めっずらし。ずっと起きてたんかよ。」

「なー梶山、春だよなァ。」

「はァ?」


 春にしては少し強めの陽光が、起き抜けの梶山の目付きを険しくさせる。半分以上は返答になっていない梅原の言葉のせいだが、彼は梶山のほうは気にも留めず、ぐっと伸びをして下ろした手の先に触れた梶山の缶コーヒーを見た。
 プルトップが開いてしばらく経つそれは、だいぶぬるくなっているだろう。もうあまり美味くはないだろうが一応自分のものなので、なんの断りもなく口をつける梅原を咎めるが、彼は外を見たまま生返事しかしてくれない。

 開け払った窓からは、体育をしているらしい学生の声が聞こえてくる。
 何をそんなに見ているんだと訊いても良かったが、声と同時に入り込むうららの春に、結局何も言わないまま再び薄っぺらい夢へ落ちてしまったのだった。


―― Spring is dreaming.

一年365題より
4/22「何か違和感」
梅さん視点の泉→浜田でした。梅さんどんだけ目が良いんだとか一年四月時点の泉は髪短かっただろうとか、突っ込みどころが多くてすみません。
四月から野外で体育するんでしょうか、どうなんでしょうか。



 
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