Category:阿部と三橋
2013 11th Apr.
☆ 偶のわずらい。
【大学生と大学生】
チャンネルの数はあっても、夕方のテレビはドラマの再放送か地元ネタを扱う地域局のニュース番組しかない。
ドラマは途中から観てもわからないので、三橋はラグの上に転がって後者が今日一日の主要なニュースを流すのを見るとはなしに眺めていた。
こないだ、さすがに暖かくなってきたからと阿部にこたつを片付けられ、今日までいまだに居場所に困っている。
とりあえずはラグの上に転がっているが、そこに実家から持って来た、小さいの頃のおひるね毛布をかぶっても、こたつに慣れた身にはなんだか物足りない。部屋に唯一ある大きめのぬいぐるみを、抱くというより押しつぶすようにしてみるが、やはりこたつの心地よさには敵わなかった。
「うー…、ん?」
暇を持て余した結果唸りながらぬいぐるみの黒い毛に埋もれていると、もふもふという音でいっぱいだった耳が別の音を拾った。
玄関のドアが開いた音だ。はっとしてぬいぐるみから体を起こしながら、誰だろう、と考える。といってもこの部屋の鍵を持っているのは、ここを借りたひとと、勝手に住み着いている自分の二人しかいない。
が、携帯のデジタル文字を見れば彼が今朝出掛けに言った時間よりもまだ二時間ほど早い。
どうしたんだろう、と三橋がまごついている間に、玄関を入ってきた人物はただいまも言わずに三橋のところへやって来た。
「あれ、あべく、」
「………。」
「時間。どしたの…?」
がらがらがら、と引き戸を開けて現れたのはやはり部屋の主、もとい阿部だった。
まだ時間があるからと夕飯の支度を全くしていなかったので慌てている三橋を前に、阿部は何故か戸を開けた格好のまま突っ立っている。
どうかしたのか。阿部は普段からあまり良いとは言えない目付きを細くして、じっと三橋のほうを見る。
「…かふんしょうになった。」
それだけ言って、阿部は三橋の近くに転がった。何故か三橋がかぶっていたおひるね毛布も取られてしまい、あっという間に水色のもふもふと化した阿部を見ながら、三橋は首を傾げた。
手を伸ばして、花粉症、と声のしたほうの毛布をめくる。先程細められていた目は少し潤んでいて、なるほどこれなら花粉症というのもわかる。が。
「あべく、花粉症…?」
「…ノドいてぇもん。」「…それ、たぶん、違う。」
「あ?」
「花粉症は、ノド痛く、ならない。」
顔が出る程度に毛布をめくってしまうと、いつになくぼんやりした目が見上げてきた。
確かに少し鼻も詰まり気味のようだが、目のそれは熱がある時のそれで赤っぽくとろけている。
黒い短髪の上から手のひらを置いて熱を見てみれば確かに熱っぽく、ほっぺたが子どもみたいな色をしている。
素人の三橋だって彼のわずらったのは風邪だとわかるのに、阿部はもはやほとんど閉じた目で尚も言うのだった。
「…あなたはノドから、鼻からっていう…?」
「それ、風邪薬の口上だ。」
三橋が言うと、阿部の勘違いの元凶がちょうどつけっぱなしのテレビで流れる。
しかし既に阿部にとって気にする事ではないようで、三橋が見ている間に瞼を伏せてしまった。
とりあえず今日はかんたんにおかゆを作ってあげて、薬を飲ませて布団に放り込もう。
ただこちらにうつっちゃ困るのでマスクをしなくちゃ。この後の事を考えつつ、だけど熱に浮かされてふにゃふにゃの阿部がなんだかかわいくて、作業に移る前に頭なんか撫でてしまった。
― You caught a cold?
一年365題より
4/11「喉」
当初三橋と阿部の立場は逆でしたが、難産だったのでトレードしました。
三橋のだっこしてたぬいぐるみは、浜田がゲーセンで取ってきたものを寄越されたようです。
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