365 | ナノ

Category:花井と田島
2013 26th Feb.

○みんなの人気者

【かみさまとお菓子屋さん】



 店の忙しさも落ち着いて来た昼下り。
 簡単に片付けを済ませ一服しようとお茶を入れて厨を出ると、店には妹二人と、さっきまでいなかったものがそこにいた。


「…田島?」

「よー花井。」


 ぱっと卓から顔を上げ、嬉しそうに笑うのは田島といい、どこにでもいるそばかす顔の少年だ。
 その正体はここいら一帯を統べるお山の権現様だが、それを知るのは花井だけだ。
 案外とひまな権現様は、今日も花井の店に遊びに来たようだが、何やら一心に卓へ向かって何かをしている。
 それは花井の妹たちも同じで、彼らは手に手に揃って筆を持ち、何か書いているのらしかった。


「あすか、はるか、おやつ。」

「わぁ!お兄ちゃんありがとう!」

「お兄ちゃん、田島さんのぶんがないよ?」

「ああ、オレのやるからいいよ。…で、何してんの?」


 それぞれにお茶とおやつとを配ってやり、花井も彼らと同じ卓につく。
 そしてその手元を見るが早いか、田島がその問いに対して「お絵かき!」と答えた。

 確かにこれは文字ではない。とりとめのない曲線とか半端な直線、点で構成されたものたちは、不規則に紙上へ点在する。
 これはたぶん絵なのだろう。それでも妹たちの描いたものはまだわかりやすく、六枚や五枚花弁の花がたくさん描かれている。
 花かと訊くと、彼女たちは同じ可愛らしい顔をきらきらさせて答えてくれた。


「あのね、もうすぐ春でしょう。」

「そしたら売り物も変わるから、お品書きにお花描いたらいいんじゃないかって。」

「へえ。そっか、それいいかも。」

「「でしょう!!」」


 花井の妹たちであるあすかとはるかは店を手伝ってくれており、店の人気看板娘だ。
 今は休憩中なのに店の事をしてくれている可愛い妹たちに、花井の口元も自然とほころぶ。

 しかしその向かいで同じ作業をしているかに見えた田島の紙には、全く違うものが描かれていた。


「おまえのはナニそれ。…カビ?」

「ちっげーよばか!」


 妹たちの描いた花を真似したようなものがあるが、飽きたのか別のものを描いたところのほうが大きい。
 何かおかしな、いびつな丸に毛のようなものが生えたものとか。
 なんだこれはと指さすと、なぜか田島は自慢げにする。


「これは、花井!」

「え。」


 堂々と言い放ったその言葉に、花井と妹たちは一瞬呆気にとられる。
 けれど妹たちはすぐにきゃらきゃらと笑い出し、花井は紙に描かれた自分だといういびつな丸を凝視した。
 こんなものがオレだと。丸に目鼻をつけただけのそれは、坊主である事を除けば誰を描いたものか、否何を描いたものかまるでわからない。

 まさかの展開にしばらく呆けていた花井に代わり、妹たちは楽しそうに田島と喋っている。


「ちがうよ、お兄ちゃんは…こんなだよ!」

「ちがうよここをこうするとさ…」

「えーこっちだろー?」


 田島に触発され、妹たちもそれぞれ紙に花井だという丸を描き連ねる。
 見ていると彼らは各々の絵に自信があるようだが、それが本気なら普段彼らの目に花井はどう映っているのかおそろしくなる。
 それに自信満々で出されるそれらは正直大差ない。まあ好きにしてくれ、と花井が観念してお茶をすすると、盛り上がった彼らは変な事を提案した。


「せっかく描いたんだし、これ貼ろう!」

「厨の壁ならさ、お兄ちゃん毎日見るもんね!」

「よし!じゃあ一番似てると思うヤツ貼ろうぜ!」


 勘弁してくれ。花井が制止しようとするが彼らは行動が早く、せめて店内から見えないところにしてくれとだけ叫んだ。


 その日から、花井の菓子屋の厨にはいびつな丸が三つ貼り付けられる事になった。


「…ふ、へったくそ。」


 毎日それを見て笑う。そんな事が、次の日から花井の日課になった。


―― He is loved so many people.

一年365題より
2/26「君が描いた僕の顔」

たじ神さまの世界は豊かで和やかなくになので、だいたいなんでも手に入ります。



 
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