365 | ナノ

Category:浜田と泉
2013 24th Feb.

★それでも世界は美しい

【吸血鬼と人間】



 鏡面の世界は何もない。
 ただ面に映った世界を、境からそっくり姿を写して世界を作る。
 かたちだけを真似た世界に熱はなく冷たさもない。まるで彼のように。


「―――………、」


 存在感の希薄な窓枠を撫ぜ、透明な風が入ってくる。日光を弾いて緑の宝石のように輝く茂みの葉を揺らし、それは薄いカーテンを通って部屋を心地のよい空気で満たした。

 薄っぺらな境界で反転するものは、時以外の物質と存在。しかしあちらで赦されなかったものが、こちらでは赦されるわけではない。


「っ、」

「わ。なんだよ泉、急に抱きついたりなんかして。」

「……ジェラート。ストロベリーのジェラート、食べたい。」

「ええ?」

「つくれ。いいからっ」


 背伸びをしようと子どもの背では彼の肩まで届きはしない。しかし構わずに腹で結んだ手に力を込めた。そう、無いよりはずっといい。

 窓枠に掛けた彼の指は、陽のあたる部分と陰になる部分のちょうど境のところで止まっていた。彼の青いほどに白い肌はとても敏感で、陽にあたると焼けてしまう。
 少し日焼けするわけでなく、文字通り肉が焼ける。
 今更太陽に嫌われたことを確認して嘆くわけではないだろうが、音もなく昼に寄り添う彼の背中が寂しげに見え、自分が勝手に抱きついただけだ。
 だからそういうことなのだ。彼が苦笑するわけは、ただ単にわがままで突飛な自分に困り果てたからだ。
 

「じゃあ飛びきり甘いの作ろう。泉の血が全部ストロベリーのジェラートになるくらいの飛びっきり。」

「ビスケットも焼けよ。のせて食べるから」

「そしたら泉にも手伝ってもらわなくっちゃな。」


 大きな手のひらに髪をくしゃくしゃにされて、ぎゅっと抱きしめられる。それだけでやっと胸の凍みは溶けてくれた。

 彼が笑ってくれると、ただ美しくあるだけの世界がふうっと息をするような気がする。風は匂いたち、光は柔らかくなって存在がもはやただの反転ではなくなる。
 何を悲観することがあろう。世界は色めき、芽吹く。それは世界の再構築だ、どちらにも赦されなかったものが赦されるかもしれない世界、または、愛されるかもしれない世界。

 冷たくも甘いこの世界に、もうひとつ彩りを加えたなら素敵じゃないか。
 食べてしまいたいほどに、愛おしいじゃないか。まるでふたりの砂糖菓子。


―― hey, AAAAAAAM!

一年365題より
2/24「どうあがいても相容れない」

 四年くらい前に書いたのでそれっぽいのがあったので、そのまま持って来ました。
 他人の血を飲んで随分と長く生き永らえている化物の浜田と、そんな浜田に見初められた人間の子供の泉のお話です。確か。子供といっても中学生くらいだった気がします。
 鏡の向こうには映したものがそっくり反転する世界が広がっていて、二人はそこでマッタリ暮らしています。
 あとお隣に悪魔のウメと人狼のカジがいます。浜田が泉のために作るごはん目当てに毎日遊びに来てるというような設定でした。

 これもいつかちゃんとやれたらいいなと思っています。
 パラレルが好きなので、ここ四日ぶんくらいみんなパラレルでしているのですが、おれ得なだけで他に楽しんでいる方がいらっしゃるのか甚だ疑問です。



 
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