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2014 20th Oct.
○ ジョイ
【高校生と高校生】
だあれもいない放課後の教室で、花井の机に座って寝てた。
テスト期間で部活がなきゃあ、残るもの好きなんかいやしない。日が落ちるのが早い秋の空はオレンジ色に焼けていて、あるじのいない机からみた他人の教室は、夕日の色がどこまでも沁みてがらんどうみたいにただ広かった。
なんだかいつもと違う。ふしぎな気持ちだ。
そのわけは、きっと慣れないピアノの曲なんか聴いているからだろう。
ピアノが弾ける花井が好きだっていう曲を端末に入れてもらって、昼間からずっと聴いている。
ひとアルバムくらいある曲を、ずっとずっと聴いている。ひとりきり、花井の席で聴くそれは、オレの深い深いところまで届くようにと弾けてみせる。まるで、花井の手みたいに気持ちいい。
とっても静かな気持ちはけれど眠ってくれやしない。机に伏したまんま、ずっと暮れ泥む世界を見てるんだ。へんな気持ち。
なんでだろ。そう思いながらまばたきしたら、手のひらが耳に触れた。
これはピアノじゃない。あったかい手。
「委員会終わったぞ。おまえもしかして今までずっと寝てた?」
「寝てねー、こないだ花井が入れてくれた曲聞いてたんだよ。」
片耳のイヤホンが外されて、転がるようなピアノの音の替わりに花井の声が触れた。
すこしきょとんとしてる花井もきれいだな。オレンジ色で、きっとオレたち今おんなじ色をしてるんだ。
「ピアノの曲ってあんま聴いたことないし、昔のヒトが作ったむつかしーもんなんだろって思ってたんだけど、聴きやすいのもあるんだって思った。」
「……そう?」
「ウン。楽器がいっこだけだから、シンプルで良かった。でもちゃんとベースの音とかメロディーとかあって、すげーって思った。」
「ふうん。」
「曲もけっこーノリ良くて、好きなカンジだよ。だからずっと聴いてた。」
「そっか。」
ほら、ねえ、オレのハナシ聞いて、花井が笑うんだ。
もちろん言ったのはほんとのことで、ウソじゃない。いいなって思って花井に伝えてる。
でもほら、オレが話すと花井がすっごいキレイに笑うんだよ。嬉しそうなさ、照れたみたいにさ、夕日の色の中で、しあわせそうに笑うの。たまんないんだ。
花井と好きなものを共有すると、こういうカオがいっぱい見られる。だからあれこれ訊いたりして花井のこともっと知ろうって思うんだ。
でもさ、花井がこんなふうに笑うの、オレにだけなんだ。わかるかな?
オレにはわかるよ。自分の大好きな子が、自分も大好きなものを好きだって言ってくれるの。それは嬉しいだろ?
実はそれだけじゃないんだ。好きだよって言ってくれてる大好きな子が話をしながら笑うからさ、だからもっと嬉しくってたまんなくなるんだ。
花井は楽しんでるオレをかわいいなって、好きだなって思うんだよ。
こんなこと考えるのは、やっぱり恋してんだ、オレ。
「あのな、これ。」
「ウン。」
「この曲、オレ好きなんだ。」
花井が外した片方のイヤホンをはめる。オレの目の前で端末をいじってそう言いながら選んだ曲が、まったく同時にオレと花井の中に響きわたる。
オレは花井を見ていて、花井はオレを見ていた。
同じものに思いをはせる。オレが笑うと、花井もくすぐったそうに笑った。
「いいな。オレも好きなカンジ。」
「ホントかよ?」
「ホントだって。ここのとこスキ。」
「ああ、」
オレも。花井が言って、少しだけ目の奥の色を変えた。ああキスするんだってわかったから、オレは睫毛を伏せた。
夕暮れは端が光るばっかりで天張りは冬の夜の色。
同じ色になってからだの中も同じ音でいっぱいにして、触れる指先は自分と同じものみたいだ。
おなじ気持ち。こころを疑う余地なんかないこんな愛しい至福を、恋愛って言うんだよ。
―― Listen to my Heart.
ああ一時間以上かかった…
花井さんと田島さまはこういう日常系がやりやすいです。たぶん花井にいろいろ属性がついてるから…
なんかちょっとやさしいお話が書きたかったです。
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