ぶちギレるトギ(SS)
2020/12/10 15:27

夢主=◯◯表記

※時間軸不明。二人で旅してた頃。


護衛としてトギを採用した今回の雇い主は、命を狙われていた。

理由なんて知らない。そこまで非人道的な人間には感じなかったので逆恨みの可能性もある。理不尽な理由の方が案外怨みが深くてしつこい場合が多いのだ。

とにかく毎日退けても退けても後からどんどん刺客が湧いてきた。

あちらは基本的に使い捨て主義なのか一人一人の戦力はたいしたことなく、明らかに素人だと判断出来るような者も中にもいたが、日々相手をするトギは段々面倒臭くなりつつあった。

雇い主が襲われ、自分がそれを護り、仕事が長引けば長引くほど貰える報酬は増えるが、その分○○と過ごす時間は確実に減った。すれ違い生活どころか三・四日帰れない事もあった。

肉体的には余裕だが精神的には限界だった。

○○不足だった。

何をしていても○○の顔と胸と尻ばかり頭に浮かんだ。

本日七人目の暗殺者を慣れた手付きで拘束しながら頭の中では想像の○○と濃厚なキスを繰り広げていたトギは、ふと虚しさを覚えて“無”になった。

“暗殺者”と表現したが金とナイフを握らされて犯行に及んだらしい汚い浮浪者はとんでない悪臭がして、トギでなければ真顔を保てない程だ。

こんなのばかり相手にしながら合間に妄想を行うのも限界だった。生身の○○の方が良いに決まっている。想像なんかより本物の○○の方がエッチで可愛い。

トギに押さえ込まれてぐったりしている浮浪者の男は一体何日風呂に入っていないのか本当に臭い。シノビの嗅覚は常人より何倍も敏感なので寧ろ普通よりダメージは大きいのだ。平気なふりをして耐えているだけに過ぎない。もう嫌だ。○○に癒されたい。こんな生ゴミみたいな匂いより○○のつむじの匂いを嗅ぎたい。

こうなったら――巣穴から出てくる働き蟻を一匹ずつ潰すのはもうやめた。

女王蟻を直接潰す。

××××


「この男ッ東国人だ、高く売れるぞ!!」

地べたに横たわるトギの顎を掴み、東国人特有の茶色の瞳に睨まれながら男が歓喜の声を上げる。
「早くボスに連絡を!」と部下らしき人物に叫びながら、一旦その場を離れた。

――馬鹿が、せいぜい今の内に喜んでいろ。早くボスとやらを連れて来い。

後ろ手に鎖でぐるぐる巻きにして近くの柱に繋いだだけのお粗末な拘束にトギは内心うんざりしながら、廃工場内を働き蟻さながらに走り回る連中に蔑んだ眼差しを向けた。

……今回の件の黒幕であろうと推測される男が人身売買にも手を染めていると聞いて、わざと捕まってやったのだ。

トギは希少価値のある東国人だ。曲がりなりにも商売人ならきっと一目だけでも目にしようとやって来るに違いない。

そこを捕まえる。

で、その後は雇い主の判断に従う。

正に完璧な計画だったが。

次の瞬間、大きな誤算が発覚した。

「こんな幸運滅多にないぞ!これで“二人目”の東国人だ!!」

――東国人だと?二人目の?

……おかしい。トギの記憶が正しければ、この街にトギと○○以外の東国人はいない。そもそも東国人は奴隷狩りに合いすぎてあまり自国から出ない。こんな遠く離れた国にいる訳がない。

ということは、つまり……。

導き出された答えに、まるでトギの脳天に氷柱が突き刺さったような感覚がした。

――――○○ッ!!

○○がコイツらに捕まったに違いない。

トギは冷えた思考がいっきに煮えたぎるのを感じた。

俺の○○が。

こんな連中に。

いつから?

もう三日帰っていないから分からない。

守れなかった。

今頃怖い思いをしているかもしれない。

断片的に様々な言葉が過る。

「――ぅ゛うぐ――――ッう゛――――ッ!」

「うわ、何だコイツ?」

「いきなり暴れだしたぞ」

男達が困惑している。とは言え誰も動きを止めることなく、作業をしながらちらりとトギを視界におさめるだけだった。起き上がったトギが唸り声を上げて身を捻るたびに鎖がガチャガチャと不快な音を立てるが、拘束されている以上安全だと高を括っているようだ。

柱から後ろ手に伸びた二メートルの長さの鎖がピンと張り、踏ん張った足がから回って地面を蹴るように滑る。

まるで、繋がれた飼い犬のようで滑稽にも見える光景だろう。何人か笑っているようだが、そんな声はトギの耳には届かなかった。

噛み締めた奥歯からギリリと音が鳴り、力んで汗が滲むこめかみに血管が浮き上がる。

――よくも、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない全員殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す○○を返せ返せ返せ返せ返せ返せ――!!!

「あ゛ッ――――ご、ろ、すッ………ろ、…………えせっ、…………ぐ、ぁ、ッ――――ッあ゛ぁ゛――!!」

不自由な喉で呪詛を吐きながら、トギは更に全身に力を込めた。

ガギィン!!!

一際大きな金属音がこだました。

鎖の一部が壊れ、片手がすっぽ抜けた。長時間締め上げられていた手首は赤紫に鬱血していたが動かすには何ら支障はないレベルだった。

「嘘だろ!!?」

猛獣も壊せない特注品の鎖だぞ!!

誰かが叫んだ。

既に逃げ出す者もいた。

片手が自由になれば後は簡単だ。もう片手もすぐに使えるようにすると、一番近くにいた男を適当に選んで胸ぐらを掴む。

鎖をちぎるのはそこまで大変な作業ではなかったが一種の興奮状態によりトギの息は乱れ、瞳孔は開ききっていた。

それから自分でも何を言ったのか、トギはよく覚えていない。

感情に任せて喉を酷使していたので発声すら出来ていなかったかもしれない。

××××


書きたいところだけ書いたぶった切りエンド。

ちなみに夢主は結局自力で逃げ出す。



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