嫁以外興味ゼロの篝(SS)
2020/02/04 11:10

夢主=□□◯◯表記


忍としての実力重視な里の重鎮からすれば、くノ一の出来損ないでしかない◯◯は篝の伴侶にしてはあまりに不相応だった。

婚約というのは交配をする為の契約だ。恋だの愛だの関係ない。

これでは、篝の優秀な遺伝子を……次世代に強い忍を残せない。

そして、ついに里の重鎮達は暴挙に出たのだった。

「――つまり、敵の目を欺く為、俺とこのくノ一で夫婦(めおと)の真似事をして暮らせと?」

重鎮達の策略により、とある田舎での長期任務を言い渡された篝。

その内容は表向きは『敵勢力の監視』というものだが、真の目的は□□家に勝るとも劣らない名家生まれの優秀なくノ一と篝で暫く共同生活を送らせ、成り行きでその間に“子”をもうけさせる事である。

篝も雄(おとこ)だ。精力溢れる美しい雌(おんな)に一つ屋根の下で迫られれば、伴侶がいたとしても魔が差すという事があるだろう。

「篝様、いってらっしゃいませ。どうかご無事で」

「お前と長い間会えないのは身を裂かれるほど辛いが……これも任務だ。辛抱しよう。せめてお前の香りだけでも持っていこう」

「もう篝様ったら」

――出発する直前。イチャイチャと大きい体と小さい体をすり合わせ出した篝と◯◯を、妻役のくノ一は冷めた目で眺めていた。

今のうちにやっていろ!こんな、ちんちくりんの小娘なんかより私の方があらゆる面で絶対に勝(まさ)っているのだから!

とにかく篝を誘惑しろと既に重鎮から言い渡されているくノ一は、自信満々だった。

篝の悪い評判は山ほど耳に入ってくるので恋情は一切ないが、その端正な容姿と他の里にまで名を轟かせる忍としての実力だけは高く評価していた。

篝の子をその身に宿せば、くノ一としての自分の評価も上がる。

胸の一つや二つ押し付けて股を開けば男なんて簡単に落ちる。この篝も例外ではないはずだ。

――――――と思っていた時期が、あったのだが。
任務終了後、くノ一は出発前と比べて格段にやつれた顔で戻ってきた。

「無理でした!!本っっ当無理!!あの男、実は不能なのではないでしょうか!?同衾(どうきん)どころか指一本触れてこなかったですもの!女としてなんたる屈辱!!」

「ッ落ち着け……一体何があったのだ」

「聞いてくだされご隠居様!あのクソ男、私を女として愛でるどころか、まるで姑のように朝から晩までネチネチネチネチ!やれ掃除が不十分だのやれ飯が不味いだの!すぐに私と◯◯殿を比較して『◯◯ならこれぐらいすぐ出来た』と宣う始末で……っ自棄クソを起こして全裸で迫ったりも致しましたが『欲求不満なら男でも買ってこい!』と寒空の下、裸で放り出されました。鬼か!!」

「ふ、ふむ、なるほど……」

「それにね、あいつ、出発する直前に着ていた服の匂いを毎日嗅ぐんですよ!まだ◯◯殿の香りがするとか言って。嘘だろ!?あんなの名残惜しくて言ってるだけかと思ったら本気かよ!?ってね。気色悪い事この上ないと思いませぬか!?いくら手練れの忍でも無理!いくら美形でも無理!!」

一方その頃、篝と◯◯は。

「っ篝様、今はお掃除の途中なので……」

「そんなものは後でいい。なんなら俺が後で雑巾がけでも何でもする。今はお前に癒されたい」

「さっき沢山口付けしたのに……っ」

……重鎮達にとっては皮肉なことに、暫く会えなかった分、更に仲が深まったのだった。



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