赫緋朱に取り合われる(ボツネタ)
2019/11/06 16:00

夢主=○○表記


緋墨が苦手だ。

本来○○はそこまで人の好き嫌いはしない方だが、彼はなんというか……悪い意味で別格だ。

何せ初対面で押し倒され、そのまま性的な意味で食べられそうになってしまったのだから。苦手意識を抱かない方がおかしい。

威瞬に襲われた時は大怪我を負っていて錯乱していたからだと捉えているが、緋墨は正常なまま狂っている。
素直じゃない所もあるが根は年相応な少年だった威瞬と違い、緋墨は日常的に女性を弄んでいるようだった。

ただでさえ女性は男性よりか弱いのに、己の力を誇示して女性を抑え込もうとする男性は恐怖の対象でしかない。

だから。これから先、出来ればもう緋墨とは関わりたくないと思っていたが……。

「よォ○○。奇遇だな、久しぶ――」

街中で偶然再会した緋墨が言い切る前に○○は軽く会釈して背中を向け、足早にその場を離れた。

今日はビジネスマン風のブルースーツを着ていたのは辛うじて分かった。それ以上は確かめなかった。

後ろから追ってきている気配はない。

突然の事に驚いてしまって心臓がドクドク鳴っている。

暫く逃げると街路樹に身を潜め、そっと様子を伺うと。

「おいおい、そんなにツれねぇと興奮するじゃねぇかァ」

「ひゃっ」

いつの間にか背後にいた緋墨に耳に息を吹き掛けるように喋られ、肩が跳ね上がる。

先回りされていたのだろうか?全く気が付かなかった。

振り向くよりもとにかく逃げようとすると、一歩を踏み出す前に素早く抱き固められてしまった。全身が緋墨の香りに包まれる。

「久しぶりに会ったお兄チャンに何か言うことはねェのか?ん?」

「は、はなして……ください……っ」

「ははァ、生意気な義妹だ。なんだぁモゾモゾして、それで抵抗してるつもりかァ?かぁわいいなー」

「やっ」

大柄な緋墨に○○の体が覆い隠されて通行人に見えないのをいいことに、服の裾から入り込もうとする大きな手を小さな両手で押さえ込み、必死に侵入を阻止していると。

突如どこからか伸びた手が緋墨の手を捻りあげ、ぴったりと密着していた大柄な緋墨と小柄な○○を引き離し、間に体ごと割って入った。

「出たな――赫夜ァ」

緋墨の愉しそうな声が○○の耳にも届く。

今日は赫夜と約束していたのではなく別件で外出していたのでまさかの登場に動揺しつつも、味方になり得る人物なのでホッとした。

「おーおー随分とタイミングバッチリの登場だなァ。ははァ、天下の赫夜サマがストーカーか?」

「……朝から妙な胸騒ぎがして、ヒザシを通して見守っていた。どうやら邪悪な存在が○○に近付いてくると察知していたらしい」

「ご自分のご行為を正当化する為のお口が達者な事で」

「そう言うお前は口の利き方に気を付けろ。また地面を舐めさせてやろうか」

どちらも声を荒げることなく淡々と罵り合っている。

恭太郎と紅雄がする些細な言い合いとは比べ物にならないくらい、空気がピリピリしている。

そのうえ、良い所ばかり組み合わせた華のある派手な容姿の緋墨と無駄なパーツなど一切無い正統派で万人受けする赫夜という、タイプは違うが顔のいい男性二人なので、段々と通行人の注目を集め始めてしまった。

二人の事だけでは飽き足らず「美形二人に取り合われるあの女の子は何者だ?」という所まで話が発展している。

助けてくれて赫夜には感謝しているが、これでは居心地が悪いことこの上ない。

「あ、あの、二人ともっ……おち、つ……っ」

自分のような小娘では、こんな大人の男の人二人を宥められる訳がないのでどうするべきか○○が困り果てていると、思いもよらない救世主が現れた。

「芳香がするから辿ってみれば……緋墨兄も赫夜さんもこんなとこで争うんは止めとき、皆見とるで。○○ちゃんも困っとるやん」

「朱央さんっ」

「おはようさん。今日も可愛ええなぁー」

オロオロしていた○○はいつの間にか背後にいた朱央にギュウと抱き締められていた。頭部に頬擦りまでされて、硬直しながら……今日はよく抱き締められる日だと思った。

緋墨と赫夜の二人に今時風のスラッとしたイケメンの朱央が加わった事で騒ぎに拍車がかかりそうになったが、冷静さを取り戻した赫夜に「とりあえず場所を変えよう」と提案され、奇妙な四人組はその場を後にした。

「だからァ、○○は今から俺と遊ぶんだよ」

「ふざけるな緋墨、お前の『遊ぶ』は猥褻行為の事だろう。○○は今から俺と防寒着を買いに行くんだ。最近寒くなって来たのにこんなに薄着で風邪を引いたらどうするんだ」

「いやーそもそも、緋墨兄や赫夜さんみたいな大人の男と女の子が一緒に歩いとったらパパ活に間違われるやん。まあ俺ぐらいの見た目やったら問題あらへんけどな。それに俺は“映え”するようなとこ、ようさん知っとるしこの子もきっと飽きんで」

「ふんっ、俺だって遊園地でも動物園でもどこでも連れてってやるさァ」

「……緋墨兄の言うのには大抵『夜の』とか『大人の』とかが付くやん。俺もガキん時『おもちゃ屋』や言うてとんでもない所連れて行かれたからなー……」

「そう言うお前も何か企んでいるんじゃないか、朱央。人一倍吸血欲の強いお前だ。隙を見て○○の芳香の血を味わうつもりだろう」

テーブルごとに衝立で区切られた喫茶店に入ったかと思うと、三人の吸血鬼はすぐに話し合いに突入した。

当事者だというのに蚊屋の外の○○はというと、いつの間にか注文されたフルーツパフェを申し訳なく思いつつも溶ける前に黙々と頬ばった。

……美味しい。とつい表情が緩むと、話し合いの最中であっても微笑ましそうな目をしてこちらを見つめていた赫夜と目があった。


××××

拍手文にするつもりだったボツネタです。拍手文にしては段々ごちゃごちゃで長くなりすぎたのでボツです。

吸血鬼お兄ちゃん達の頭の中には、

【夢主=紅雄の彼女(勘違い)=俺の可愛い妹! !】

という認識が一応あります。緋墨は弟の彼女でも関係なく夢主が自分の好みなので襲います。コイツに常識というものはない。





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