ハロウィンですね、一輝くん(SS)
2019/10/08 08:29
夢主=○○表記
ハロウィンで節度なく馬鹿騒ぎする奴等が、一輝は嫌いだ。
単純に見ていて不愉快だからだ。
中にはちゃんとマナーを守って楽しんでいる者もいるのでそういうのは一部の連中だけだとは知っているが、ハロウィンと聞くとつい嫌悪感が先行されてしまう。
が。
「お前、その格好どうしたんだ?」
「えっとね……この後友達の家でするハロウィンパーティーに招待されたんだけど、一輝くんにも見てもらいたくって」
ごめんね、急に来ちゃって。
と、小首を傾げながら上目遣いに言う○○に一輝はこの時だけは「ありがとうハロウィン!」と、心の中で手を合わせた。
何のコスプレか知らないが、いつも真っ直ぐの髪は巻かれ、黒いレースのワンピースを着ている。所謂ゴスロリというやつだ。制服のスカートより少し丈が短い。
そこで一輝はハッとした。
「ここに来るまでに誰にも会わなかったか!?」
「え……何人かの人とすれ違ったはすれ違ったけど、皆知らない人だったよ」
「誰が見てるか分からねぇから早く中入れ、今買い物行ってて親いないから!」
学校の子に○○が一輝の家の前にいる所を目撃されるのが嫌なのかな?と○○は推測したが。
実際は、○○のこんな可愛い姿を例え道行く他人であっても見せたくない一輝の嫉妬心からの行動だった。
「お、お邪魔します!」
実は玄関で少し話すだけのつもりだった○○はちょっと驚きつつも、ゆっくり話せるならそれはそれで嬉しいので中に入るといそいそとスリッパに履き替え、一輝の後に続いた。
両親がいないからか、いつもの一輝の自室ではなく○○は居間に通された。
「なんだか新鮮だね」
○○が遠慮がちにソファーに座る時ニーハイがずれていたのでこっそり直す仕草に、一輝はドキリとした。
「何か飲むか……?」
「気を使わなくて大丈夫だよ、このあとパーティーで色々食べたり飲んだりするから」
確かにその通りなのだろうが……一輝は内心ちょっと面白くなかった。
「パーティーって男も来るのか?」
「女の子しかいないよー。男の子がいたら断るつもりだったし。実はこの衣装、友達が選んでくれて可愛いけど結構恥ずかしいんだよね。ここに来るまではコート着てたもん。クラスの男子には絶対見せられないよ」
でも俺には見せたかったんだよな?と、密かに優越感に浸る一輝。
不意に○○は思い付いたように、隣に座る一輝に「トリックオアトリート!」と言った。
「突然だな」
「ただ言ってみたかっただけなんだけどね」
無邪気に微笑む○○に堪らなくなって、勢いよく立ち上がった一輝は手当たり次第戸棚を漁った。
「ごめん、母さんが今ダイエット中だから菓子がこれしかなかった」
「私これすごい好き。一輝くんありがとう」
差し出されたフルーツののど飴の袋をニコニコと嬉しそうに受けとる○○。黒い服を着ているが天使にしか見えない。
掛け時計を見上げ「もう行かなきゃ」と立ち上がる○○に、段々別れが惜しくなってきた一輝は突然○○の前に立ち塞がった。
「一輝くん?」
「…………ト」
「?」
「トリ、ックオア……トリート」
妙な気恥ずかしさに声が上擦る一輝に、○○は一瞬キョトンとしたがすぐに笑顔に戻った。
「私今お菓子持ってないの。ごめんね、貰ってばかりで。またクッキー焼いてくるから」
「……お菓子がないなら、悪戯だろ」
脇を通りすぎようとして抱き締められた○○は「?」マークを浮かべつつも、一輝の体温と匂いにポッと頬を染めた。
「断れよ、パーティー行くの。ていうか行かせねぇ。これは悪戯だからな」
「えっ、エ、ヘヘ……そっかぁ……」
我ながら独占欲が強い面倒臭い男だと思うが、○○も戸惑いつつも一輝に引きとめられて満更でもなさそうなので似た者同士なのかもしれない。
「でも……どうやって断ろう」
「……『彼氏に止められた』って言えよ」
「いいの?」
「いいよ。そう言っとけば角が立たないだろうし、彼氏持ちだって分からせとかねぇとこれから色々誘われても困るだろ」
「うん!あ、でも名前は出さないで置くね。質問責めされて一輝くんに迷惑がかかるかもしれないから」
「俺はその方が助かるけど、お前はいいのか?」
「公言してもしなくても、一輝くんは私だけの一輝くんだから平気だよ」
「ん゛んっ……そ、そうか」
いつもの呻き声を上げる一輝。
その隙に腕の中から抜け出した○○は思い出したように鞄から“あるもの”を取り出して、頭に装着した。
「これでこの衣装、完成なんだよ」
ちっちゃな悪魔の角のついたカチューシャをつけた○○に、こんな可愛い悪魔にならそそのかされたいと思った一輝だった。
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