ねえ、風介笑ってよ。彼女が私に真顔で言ってきた。だから私も真顔で答えを出した、いや真顔なのはいつものことなのかもしれない。
「断る」
『引き受けて』
「だから断ると言ってる」
『何で』
「笑えと言われてもいきなり笑える訳が無いだろう」
そんなことないよ、と言う鱚味にじゃあ笑え、と言ったら笑った。ほら、私は笑えるのよ、風介は出来ないの?私に出来て風介は出来ないの?ふふふっ、………いや、ハッタリだと分かっている。そもそも笑うってなんだろうか、と尋ねたら鱚味はきょとんとしてああそうか!と紙とペンを出して何かを書き出した。ほら!と自信満々に見せられたものは私らしき人物の笑顔。ふざけるな。
『え、まだ分からないの?』
理解力ゼロね、…………いやハッタリだと分かっている。
「何故いきなり笑え、と」
『笑顔みたことないから』
「見せなきゃだめなのか」
『だめ』
私、生まれてきてから今現在風介の笑顔見たことないもの、そんな理由でか。ねぇ風介は笑ったことないの?そんな訳無いだろう。じゃあ笑えるでしょ?
にこにこ、鱚味はそんな表情で。
笑う、笑う。意識しても分からないのだ、真っ白になる、私だって幼い頃は笑っていた。親にサッカーボール買ってもらった時とか、好きなキャラクターのフィギュア買ってもらった時とか、あと………。
『風介?』
生温かい水が頬を伝った、涙か。こんなにも自分は落ち着いているなか鱚味はおろおろと慌てながら薄いピンク色のハンカチで私の涙を拭いた。
「すまない」
『ううん、なんかごめんね』
「…いいんだ、」
何だか温もりが欲しくて彼女を引き寄せてキスをした。
『んむ、ぁ……ふうすけ、ごめんなさい』
自分の行動が不思議でたまらなかった。こんなにも求めてみただなんて考えられなくて、こんなんじゃ紅蓮のアイツみたいじゃないか。と髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「鱚味は悪くない」
『……………!』
自然と頬が上にあがった。そしたら彼女もにこり、と顔を赤らめて笑顔になってくれた。私は上手く笑えただろうか。
***
なんかキス関係ないよね
だか風音は涼野の笑顔が見たかったんだ