憧れ


空が薄暗い。テレビの天気予報ではお姉さんが今日は午後から雨だと言っていた。午後からしか降らないなら大きい傘は邪魔だから置き傘を持って行こう。授業後の部活はきっと筋トレだから朝練にはめいいっぱい体を動かさないとな!








「やっぱ降って来たか」


筋トレ、ミーティング後帰ろうとした時には空は真っ暗になっていた。まるでバケツをひっくり返したような雨だ。

野球部は他の部活に比べると遅くまで部活をしているためまわりには野球部以外誰もいない。それに加えて今日は雨。チャンスだと思った。一度はやってみたい、そう思っていたことがあるんだ。


「はっ、はない!」
「ん?どうした田島、帰らねぇのか?」
「帰るけど…花井、傘持ってきてる?」


俺がしたいこと、それは相合傘。好きな相手とくっついて堂々と歩けるなんて最高じゃん!普段は難しいからこそ憧れていたことだ。


「持ってきてるけど…あっ、お前忘れたのかよ」
「そっ、そうそう!だから花井の傘いれてよ!」
「仕方ねぇな…」


ニュースとか見てないのかよ、と言いながら花井は鞄から置き傘を取り出した。その傘を宝物であるかのように見つめる。いよいよ願いが叶うと思うと緊張と嬉しさで心臓がバクバク鳴りだした。しかし、その時


「あれ?田島く、置き傘もってきた、って」


三橋がポツリと言った。そういえば今日は雨が降るから置き傘持ってきたんだー!と教室で言った気がする。疑問に思ったか忘れたと思ったんだろうけど…


「三橋っ言うなよ馬鹿!」
「どういうことだよ、田島。なんでわざわざそんな嘘つくんだよ」
「お、俺はただ…相合傘がしたくて…」


言ってしまった。俯いた顔が熱い。きっと真っ赤になってるだろうな。花井の視線も感じるし。もしかしたら呆れてるかもしれない。嘘をついてまでって…


「あのっ、はない」
「あー、そういえば俺の置き傘穴空いてたわ。悪ぃーけど田島の入れてくんない?」


早口で言われた言葉に一瞬反応できなかった。なんか言えよ、と小さく花井が呟いた。それに反応して顔をあげると目の前には俺と同じように顔が赤い花井。

急いで傘を取り出して開くと、ひょいっと花井に奪われる。俺よりはるかに背が高い花井が持てば相合傘もし易くなるし、濡れにくくなる。その行動に俺はさらに嬉しくなって思わず花井に抱きついたんだ。









土砂降りの雨の中、濡れないようにと寄り添う2人を邪魔するものは何もない







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