好み


雑誌のページを捲る。『今回の秋冬ファション特集の女子はレベルたけぇからみろって!』と、大学の友達に押し付けられたそれ。俺は話題作りのために一応目を通していた。


「あー!花井なに読んでんだよー!浮気かー?」


なんて言葉と共に後ろから腕がまわってきて俺の首の前で組まれる。覗くような形をとり、肩らへんに現れた顔を見ると、そこに居たのは田島だった。まあ、同棲しているし当たり前なんだが。


「田島バイトじゃなかったっけ?」
「あと5分後くらいに出てくよ」


あっ、俺この子好み!とさしながら笑う姿は高校の時と変わらない。あの頃はへー、と流したりしたが今は付き合ってる訳だし、気にならないというと嘘になる。俺は田島の指の先を辿った。髪をアップにした背の高い女の子。かっこ良くきめている。


「この子身長高くね?昔は自分より背低い方がいいって言ってなかったか?」
「うん……でもさ背高い子ってかっこよくてしっかりしてる子多くね?」
「まぁ確かにな」
「そういう子の照れてる顔とか下から見上げるの好きなんだよなぁ」


なんだそのマニアックな理由、と思いつつ自分のテンションが下がっていく気がした。なんだか負けた気がして悔しいのだ。俺が居るのに…と。その子を見せたくなくて、ページをめくった。


「あ、この子いいな」


背が小さくてショートヘアー。格好はいかにも元気ハツラツ!という感じだ。男の子っぽい感じもするがなんだか凄く目を奪われた。


「この子?花井、前はもっと女の子っぽい子が好きだったじゃん」
「そうだったけどさ…こういう子って元気で、落ち込んだりしなさそうじゃね?」
「まぁ…」
「でも俺にだけ弱い部分みせてきたりしてさ。守ってあげたくなるよなぁ」
「ふぅーん…」


背中から田島の温もりが、そして目の前から雑誌がなくなった。立ち上がった田島の手にはさっきまで見ていた雑誌が握られている。田島は不機嫌そうな顔でぷらぷらと手を振るとその勢いのままゴミ箱にほかった。


「バイトいってくる」
「おう。頑張れよ」


玄関まで見送って、部屋に戻る時にゴミ箱から雑誌を救出する。借り物だから捨てるわけにはいかない。汚れたりしてないかとペラペラ捲り、さっきみていたページで止めた。そして先ほど自分で言った言葉を思い出す。

『元気で、落ち込んだりしなさそう』
『俺にだけ弱い部分みせてきたりしてさ。守ってあげたくなるよなぁ』


「…これ、田島に対して思ってることまんまじゃねーか」


女の子の写真みていても無意識に同じような子を探していたらしい。そういえば田島に昔の好みとは違うって言われたっけ。それはつまり…


「心底田島に惚れてるってことかよ」


付き合ってる人が好みです、なんて恥かしいことを無意識に話してたのか…。しかも本人に。

穴があったら入りたい…。誰もいなくなった部屋で1人赤面する。同じ理由で田島も赤面していたなんて、この時の俺はまだ知らないのであった。










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