優先順位



中小企業だけど、なかなか重要な役職につけた。部下だって出来たし会社の雰囲気だってまあまあ良い方だと思う。それなりに楽しんでいるんだが…ただ、今だけは仕事を恨むぞ





体全体にのしかかる疲労に気づかないふりをしてドアを開く。中から漂う料理の匂いと走る時になるスリッパ特有の音に顔が緩んだ。


「おかえりー梓!」
「ただいま、悠」


紺のシンプルなエプロンを来てギュッと抱きついて来たのは俺の大事なお嫁さん。悠の家族、俺の家族に頭を下げてやうやく許して貰った俺たちは所謂『新婚生活』を楽しんでいた。


「悠、俺腹減ったんだけど」
「ダメ!もうちょっとだけ…だって最近梓帰り遅いから会えなかったし…」


胸に顔を埋めながら悠は言った。隙間をなくすようにさらに腕の力を強くする。確かに最近は忙しく夜遅かったり、会社に寝泊まりってーのが当たり前だった。

久しぶりに触れ合えるのだから勿論俺だって嬉しい。暫く久々の悠を堪能していた。それから離れたのは我慢できなくなった腹の虫が鳴いたころだった。

テーブルの上には美味しそうな料理。俺が仕事、悠が家事。専業主夫となってから悠の料理の腕は抜群に良くなったと思う。


「うまいか?」
「めちゃくちゃうまい。悠おかわり」
「へへっ!たっくさんたべろよな!」


お茶碗を掴みご飯をよそいに行く悠。その後ろ姿にそそられる。仕方ないだろ?久しぶりなんだし、と何故か誰かに非難されたわけでもないのに頭の中で言い訳をする。1人で食べる夜ご飯は思いの外キツかったらしい。その分今が幸せに感じるんだ。

食事を済ませまったりと2人横に並んでテレビを見る。まあテレビの内容など頭に入ってきてないのは言うまでもない。悠は甘えるように腕を絡ませ、頭を俺に預けていた。ああ…この幸せが続けばいいのに。と、思っていた矢先無常にも俺の携帯が鳴った。


「わりぃ…会社の後輩からだ」


心の中で舌打ちをして立ち上がる。隣にあったはずの温もりを自分から手放した。


「もしもし、どうしたよ…今日はもう仕事終わったんだけど」
『わかってますよ!だから携帯にかけてるんですから。先輩ちょっと例の件で先方さんから連絡があったんですが』
「はぁ!?あれは俺じゃなくて北川の担当……悠?」


電話をしながらふと悠の方を見ると泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。俺と目が合うと顔を背けた。けど表情は変わらない。


『だって北川さん恐いんすもん!それより悠って誰のことで「悪い。急用が出来た。取り敢えず自分でなんとかしろ!じゃあな」えっちょ、先輩!』


携帯の電源を落とす。お前はちょっと休んでろ。最近働き過ぎ、とそこら辺に携帯をおいて悠の方へ向かい、抱きしめる。


「…いいのかよ。後輩困ってんじゃねーの?」
「あいつは俺に頼りすぎなんだよ。それに今は悠の方が大事。ほっといてごめんな」


1番大事なのは悠のはずなのに…仕事だって悠と暮らすため、生きていくためにしているはずなのにな…


「大好きだよ、悠。愛してる」
「…俺も」


たまには恥ずかしがらずに素直に愛を伝えるのもいいかもしれない。それから、俺は充分に悠と有意義な時間をすごした。次の日携帯の電源を付けたら恐ろしいことになっていたのは、また別の話






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