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携帯の着信が部屋に鳴り響いた。その音で意識が浮上する。鳴り続く携帯を手に取り通話ボタンを押すと、耳に当てながらキッチンに向かった。酔いを覚ますよう、水を飲む。


「はい、どちら様ですか?」
「バニーちゃん!おれおれー!虎徹さんですよー!」
「はぁ…あなた酔ってますね。1人ですか?」
「1人でーす!いいからいつもの場所こいよー!」


大きな声に顔をしかめる。聞こえる感じからして完璧に酔っているようだ。このままだと店に迷惑をかけるだろう。僕は虎徹さんに迎えに行くから動くなと伝えると通話を切った。飲んでしまったため、歩かなくてはならないが夏に近づいているとはいえまだ夜は肌寒い。かけてあったコートを羽織り、目的地へと向かった。


ざわつく店内。騒がし過ぎす、静か過ぎないこの店は虎徹さんのお気に入りの場所であった。僕もこの店は好んでいる。周りの人に気付かれることがなくゆっくりとプライベートを楽しめる数少ない場所だからだ。

カウンター席の1番奥。机に突っ伏すようにしている虎徹さんが見えた。すっかり酔っている彼の手を引き支払いをすますと外にでた。力が入らないのか僕にもたれる形で虎徹さんは歩く。真っ暗な道には誰もいない。街灯も沢山たっていない道、やはり迎えに来てよかった。


「バニー!おんぶ!」
「僕も飲んだので無理ですよ。危ないですから」


そう言った時、さっきまで力が入っていなかったはずの虎徹さんがピタリと動かなくなった。反動で後ろに倒れそうになったが、ぐっと足を踏みしめ耐える。


「どうしたんですか?」
「女と飲んだのかよ…」
「はい?ああ、お見合いですか、それなら…」
「俺はっ!俺は…ただお前に色んな経験をして欲しいだけなのに!」


苦しそうな声、苦しそうな顔をして虎徹さんは言う。虎徹さんらしくない、普段ならそう言うのだろう。でもあまりに辛そうなのを見ていられなくて、何も言わず僕の肩に顔を当てるように抱き込んだ。そのせいでくぐもった声質になりつつもさらに虎徹さんは話す。


「嫉妬はしてるよ。でもおじさん変なプライドとか遠慮とかが邪魔して言えないのよ。バニーちゃんが呆れるのもわかる。でもな、バニーちゃん。頼むから好きじゃないだろなんて言うな。それだけは認められねえよ」


肩がじんわりと濡れた感覚がした。弱い姿は人一倍見せたくない性格である虎徹さん。そんな虎徹さんが僕に見せてくれている。僕もそれに答えなくては


「すいませんでした。軽い気持ちの発言で傷つけてしまって…。でも、虎徹さん。あなたにも頼みたいことがある。たまにでいい、今日みたいに本音を教えてください」


付き合ってから2人の距離は近付いた。それでもお互いに入られたくない場所があるのは仕方が無いことだ。曲げられない所は曲げない、それでいい。でも曲げれる所は合わせていけばいいじゃないか。

ずっと溜めていたものを全て吐き出せますように。そう願って僕は抱きしめる力を強め背中を撫でた。







後日お見合いに行っていなかったことを虎徹さんに打ち明けた。あのおかげでお酒の力とはいえ本音を聞けたわけだが、不安にさせていたのは事実なためハッキリと誤解を解いておきたかった。

そうか、と嬉しそうに笑う虎徹さんには以前のように付き合いを促すような雰囲気はない。その変化に嬉しくなる。

今日は娘さんが家に来るらしく早々と支度を済ませた虎徹さんを見送る。しかし虎徹さんは思い出したかのようにこちらを向き爆弾発言を残した。その言葉に僕はめったにないほど真っ赤になってしまったのだった。
















『あの時ほとんどシラフだったのは内緒な』


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