好きだから、好きならば
お見合いの話が来た。浮いた話のない僕を心配してロイズさんが気を利かせてくれたらしい。まぁ、僕には虎徹さんという恋人が居るわけだし必要はないわけだが。
ただ、付き合った当初からその恋人とのことで悩んでいることがある。それはまったくと言っていいほど虎徹さんがヤキモチをやいてくれないということだ。KOHになってからというもの今までよりさらに僕に声をかけてくる女性が増えた。それは虎徹さんと一緒に取材を受けている時もだ。もちろん丁重にお断りするのだが虎徹さんは慌てることもなくあろうことか「食事くらいいってやれよ」と促すのである。
お見合いの話だって本当は直ぐにでも断ろうとしたけれど、もしかしたらヤキモチをやく虎徹さんが見れるかも、と敢えて返事を保留していた。
「虎徹さん」
仕事を終え、さて帰るかという時に虎徹さんを呼び止めた。少し話しませんか、缶コーヒーを差し出しつつそう言う。あの事を切り出すために
「おお、サンキューバニーちゃん」
「いえ、引き留めてしまうお詫びに」
「気にしなくていいのに」
軽く缶をふり、プルタブを開ける。所謂大人の味に肩の力が抜ける。さて、切り出そう。ただし不自然でないよう、とりとめのない話から。そうしてただ単に話したかっただけという雰囲気をだした所であの話題を入れる
「そういえばこの間ロイズさんにお見合いのお誘いを受けたんです」
「……へー、で?また断ったんだろ。ロイズさんにはちっと申し訳ないな」
「いえ、断ってません」
はっきりと否定する。まぁ正確には返事をしていないのだが。しかし虎徹さんにとってその返事は予想外だったのだろう。いつもなら僕が断っているから。虎徹さんの動きも表情も一瞬固まった。だけどーーーーー
「そうか。まあ気をつけていけよ!失礼のないようにな」
「…ええ、わかっていますよ」
やはり、という所か。いつもとなんら変わらない態度に、結局虎徹さんは僕が誰とどうすごそうといいって事なのかと悲しくなると共にイライラがつのる。僕は飲み終えた缶コーヒーをぐちゃっと潰しゴミ箱にすてると
「虎徹さんは本当に僕が好きなんですか?あなたには危機感というものが見られない。お見合い…成功するかもしれませんね、気にしないでしょうけど」
そう言って部屋を出た。
ああは言ったが結局お見合いに行く気力もなく、ロイズさんに断りを入れ、その日は足早に家へ帰った。まるでお見合いに行ったかのように見せるため虎徹さんには敢えて知らせなかった。性格が悪いとは思うが少し懲らしめたかったのだ。
こんな憂鬱な気分の日はお酒を飲んで寝てしまうに限る。ロゼとワイングラスを両手に持ち、寝室へと移動する。ベッドの脇にある小さな机に置くと立ちながら飲んだ。空きっ腹に飲めば早くまわるだろう。そうして自然に瞼が落ちてきた頃、着替えもせずベッドに体を沈めた。
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