虎徹さん子供になる


虎徹さんが子供化した。言わずもがなNEXTの所為である。能力をくらった虎徹さんは体が縮み、そのまま気絶した。外傷はなく体が縮んだだけだから時間が経てば能力がきれるだろう、と安心していたがそうはいかなかった。


「あっ、目が覚めたんですね!大丈夫ですか?」
「本当、何やってんのよ!心配したんだから」
「あらまあ…随分と可愛くなっちゃったわね」
「………お前らだれ?」


汚れを知らないような瞳で、言われた。嘘をついているようには見えない。皆一斉に僕のほうを見るが、僕も状況が把握出来ておらず、首を横にふると一様に肩をすくめた。おそらく虎徹さんは頭の中まで子供になってしまった…昔に戻ったのだ。


「僕たちはヒーローですよ、あなたを両親から一時的に預かりました」
「うっ、うそだ!オレのしってるヒーローにおまえらはいなかったぞ!」


都合がつきやすいようにとついた嘘はやはり無理があった。忘れがちだが虎徹さんは37歳。彼が子供の時に見ていたヒーローは僕らとはまったく違うのだ。困っているとここは任せて、と後ろから肩を叩かれた。すっ、と身を引く。


「あたし達、今度からNEWヒーローになるのよ。あんたの好きなレジェンドと同じヒーロー」
「なっ、なんでオレがレジェンドが好きって知ってるんだよ!」
「ヒーロー、だからよ」


パチンッとウインクをきめながらファイアーエンブレムは言った。どう考えても力技であるその言葉。期待せずに虎徹さんを見ると目がキラキラしていた。まさか……


「すっげー!さすがヒーローだな!」


それは納得するのか…、と力が抜ける。子供だから夢のあることは信じやすいのかもしれないとはいえ虎徹さんらしい。僕なら信じないだろう。

さて、これからどうするか。能力がきれるまでおそらく一日はかからないだろうが、誰にも見られないほうがいいだろう。1人にも出来ないし、いつ事件が起こるかわからない今、誰かが代表で世話をするしかない。


「わっ、私が世話してあげて「僕が預かります」ちょっ、ちょっと被せないでよ!」


赤い顔をして抜け駆けをしようとするブルーローズの言葉を遮る。彼女とは前からライバルなわけだが、虎徹さんと僕が付き合ってからもすきあらば、というスタンツらしいのだ。勿論渡すわけにはいかないし、バディとしても僕が見るべきだろう。

文句を全てかわして、虎徹さんの前に向かう。未だに目をキラキラさせている彼に手を差し出した。頭の上にはてなを浮かべる彼の手をとり早めの帰宅へと至った。



明るい中帰るというのは不思議な感じだ。大抵夜真っ暗な中か、朝の薄暗い中帰るからだ。音楽のかかっていない車内は呼吸の音だけが規則的に響く。


「にいちゃんこれからどこいくの?」
「僕の家ですよ。あと僕はバーナビー。バーナビーブルックスJr.です。君は?」
「オレ?オレはかぶらぎ・T・こてつ!よろしくな!バーナビー!」


いつもより高い声でバーナビーと呼ばれることに違和感をかんじつつ、運転を続ける。つまりバニーと呼ばれることに対し慣れて来ていたのだとわかり、頬が緩んだ。それくらい彼とは過ごして来たのだと。

自宅へとついた。車を止め、降りるとエントランスへと向かいボタンを押す。自動ドアがあいたところを素早く通りエレベーターに乗った。


「バーナビーのいえってたかいところにあるんだな」
「そうですね、景色がとてもいいですよ」


エレベーター特有の浮遊間がなくなり、ポンッと軽快な音と共に止まる。エレベーターを降り、ドアの鍵を開けると虎徹さんの背中をおし先に招き入れた。

入るやいなや探検だ!とばかりに家の中へと虎徹さんは向かう。大人でも広いと感じる部屋なのだから子供は尚更未知の世界に見えるのだろう。

鍵を締めると僕はキッチンへと向かった。なにか、飲み物を…て、なにを出せばいいのだろう。いつもなら少し甘めのコーヒーを出すところだが、子供にはまだ口に合わないだろう。僕としたことが…途中でスーパーによるべきだったか。しかし、一般客に囲まれることは容易に想像出来る。仕方ない、ミネラルウォーターで我慢してもらおう。

ミネラルウォーターとコーヒーを持ってリビングに向かうと、大きな窓に張り付くようにして外を眺めている虎徹さんが居た。


「気に入りましたか?」
「うん。バーナビーのいえはすごいな!とおくまでよくみえる」


ミネラルウォーターを手渡すと興奮して喉が渇いていたのか両手で持ち勢いよく飲み干した。僕はゆっくりと味わうようにコーヒーを飲む。
僕に対し『あれがビルだ』などと言って景色を楽しんでる様子もなかった時とは大違いだ。その時を思い出して頬を緩める。しかし次の言葉に一瞬にして表情が戻った。


「バーナビー!バーナビーのとうちゃんとかあちゃんはどこにいるんだ?」
「……この家には僕1人で住んでますよ」


何も覚えてない、否、知らないから仕方ない質問。今まで色んな人に何度も聞かれたことあるから慣れてはいる。ただ穢れのない瞳で見つめられてさらには


「こんなひろいばしょでひとりはさみしくないのか?」


なんて言われたら辛いものがあった。子供の頃の世界は単純で両親がほぼ全てを占めている。だからこそ1人なのは耐えられない。まるで自分のことのように虎徹さんは顔を歪めた。子供の感性は豊かだ。いつもならば僕も「もう大人だから大丈夫ですよ」なんて強がるかもしれない。ただ、子供の素直さに影響されるように本音を言う。


「寂しい、ですよ。たまに夢を見るんです。両親と離れた時の夢を」


両親は死んだ。直接的に言うのは子供にはよくないだろうと違う表現をした。子供相手に弱音を吐くのは如何だろうとも思うが、言ってしまったものは仕方ない。

話題を変えよう、そう思っていたら突然お腹に振動が来た。コーヒーが零れてないのを確認した後下を見ると虎徹さんが抱きついて居た。震えている虎徹さんにしまった、と焦る。


「虎徹…さん?」
「さみしいならオレがいっしょにいる!だからなくなよバーナビー」
「泣いてなんかないですよ」
「うそだ!こころのなかではないてるくせにっへいきなかおするなよ!」


顔をあげた虎徹さんは強い意思をもった瞳から大粒の涙を流していた。綺麗だと思った。この人は昔から綺麗な心を持っていて、そのまま大人になったんだ。


「ありがとう…ございます」


色んな気持ちが溢れて来て、口から飛び出しそうなのを必死に抑える。伝えるならば元に戻ってからだ。しゃくりあげるように泣く虎徹さんの背中を撫でる。そこからお互い無言だったが、気まずいは感じなかった。心地良かったのである。


泣きつかれて寝てしまった虎徹さんの頭を撫でる。元に戻った虎徹さんが赤面するまであと数時間。














好きです、あなたが好き。あなたの綺麗な心が、温かい感情が、僕の固まってしまった心を柔らかくしてくれるんです。ありがとう、虎徹さん。



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