居残り授業
高校2年の冬、普通なら受験前最後の自由を謳歌している時であるが、俺は教室に残っていた。外が暗い中俺たちが居る教室から光が漏れる。俺たちっていうのは俺と花井先生だ。あまりに点数の悪い俺のために担任である先生が勉強を見てくれていたのである。
「…で、こんだけ説明したわけだが理解したか?」
「………へへへ」
「笑って誤魔化すな!」
先生に丸めた教科書で軽く頭を叩かれる。あー、今数少ない俺の脳細胞が死んでいったー、とふざけていうと呆れた目で見られた。
「…半分くらいは理解しました」
「半分か…家帰ってから復習しろよー」
はーい、と元気ない声をだす。だって家に帰ってからも勉強とかテンション下がるだろ?まぁ普段やらな過ぎなんだけど。はぁ、とため息をついて机につっぷしていると元気つけるように頭をぽんぽんと叩かれた。その手を上なら包むように握って顔をあげる。
「先生って馬鹿な子好き?」
両手でしっかりと握り直してじっとみつめた。真面目で世話好きな性格だから俺みたいな馬鹿な子好きでしょ?、とそんなニュアンスをこめる。期待も添えて。
「…俺、賢い子が好み」
「嘘!?」
握っていた手を離し俯く。勇気を出して告白まがいみたいなことをしたのにバッサリと切られてしまった。これは遠回しにふられたのだろうか…というかかなりの勘違い野郎じゃないか…はずかしっ
「だから…」
何故か目の前に影が出来た。顔をあげると近くに先生が居た。さっき離した手が俺の前髪に触れる。少し撫でられた後、かき上げられて…ゆっくりと顔が近づいてきた。驚きで体が固まるのがわかる。額に柔らかい感覚があって、またゆっくりと顔が離れていった。
「っ……えっあの、せんせっ」
「続きは次のテストいい点とったらな」
流石先生。俺の扱いがわかってる。俺はまんまと策にはまって勉強を頑張ることになるんだろうな、とまるで第三者のように感じた。嘘だったら許さないからな、と意味を込めて赤い顔で睨む。けど悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべる先生にはやっぱり敵わないんだろうなと思ったのだった。
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